● 大切な荷物(1/2) ●
「さて、それじゃ出発しましょうか」
ヴェルンの酒場にいたヴィトスに声をかけ、ユーディーはにっこりと微笑んだ。
「出発するって、どこへ」
「どこへって、メッテルブルグって街へよ。護衛、よろしくね」
「よろしくねはいいんだけれど……」
いつもユーディーが手に持っている採取カゴはいい。ヴィトスが目を留めたのは、彼女が
背負っている、山のように大きなリュックサックだった。
「隣りの町へ行くだけなのに、ずいぶんと大荷物だね。引っ越し道具でも入っているのかい?」
「そんなの入ってる訳ないじゃないの。これは最低必需品よ」
「ふうん……?」
最低と言う割りには大きすぎるように思えたが、道中必要な着替えや毛布でも詰め込んで
あるのだろうか。
「僕が持っていこうか? そんな大荷物じゃ大変だろう」
「ううん、自分で持てるから大丈夫よ」
首を横に振る。
「そうか。途中で疲れて気が変わって、『リュックを持って欲しい』なんて甘えても、
その時はもう遅いぞ。持ってやらないからな」
からかい気味にヴィトスがリュックに手を伸ばそうとするが、ユーディーは身体を
ひねってその手を避け、
「平気よ。それに、これは大切な荷物なんだから、他の人に任せる気はないもの」
きっぱりと言い切った。
「毛布だったら僕が持っているから、もし余分な荷物があったら置いてきてもいいんだぞ」
それでもヴィトスは彼女を気遣うが、
「えっ、毛布? 毛布って、持ってないわ」
きょとん、とした目で見つめられてしまう。
「毛布がないって、君は夜になったら身体に何もかけないで眠る気だったのかい」
「あー、えーと、でもヴィトスが持っててくれてるんでしょ? だったらいいじゃない」
「それに、毛布もなしでその荷物は、一体」
「まあまあ、いいじゃない。出発、出発〜」
ぐいっとヴィトスの腕を掴み、ユーディーはすたすたと歩き始めた。
ユーディーと一緒にヴェルンに隣接している採取場に入り、共に数時間を過ごした事なら
何度かあったが、数日かけて旅をするのは初めてだった。
「君は、本格的に街の外に出るのは初めてだったよね」
彼女と初めて会って、ヴェルンに連れてきて。宿の世話をしてやってから、彼女が
街の外に出た事は無かった筈だ。
「うん、何だかドキドキするなあ。でも、ヴィトスが一緒だから平気でしょ?」
あどけない顔でにっこりと笑う。
「ああ、そうだな」
まだ自分は彼女に完全に信頼されていない、それは感じているし、彼女が出会って間もない
人間を簡単に信用するような娘ではないのは何となく分かっている。
それでもユーディーが時折見せる輝くような微笑み、こちらの心までとろけてしまいそうな
笑顔を見せられると、早く彼女の信頼を得たいという気持ちになってしまう。
二、三匹のぷにぷにがいた程度で、特に障害もなく道を進んでいく。
「何だか楽勝だね。このペースじゃ、夜になる前にメッテルブルグに着いちゃうかもね」
「さすがにそれはないと思うけれどね」
最初のうちは元気そうに軽口をたたいていたユーディーだったが、街から離れて行くに連れ
舗装されている箇所が無くなり、主要な道とはいえ山道に近いような土道になってくると、
途端に根を上げる。
「何だかもう、疲れたよ〜」
「さっきの勢いはどうしたんだい。今日、メッテルブルグに着くんだろう?」
「ううう、ヴィトスいじわる。もう、足が痛いよ」
拗ねたような瞳がヴィトスを見上げる。そんな顔をしている本人は気付いてやっているのか
どうなのか、あまりに可愛らしい表情に、ついついヴィトスも優しい気持ちになってしまう。
「そうか、だったら少し早いけれど、今日はもう休むとしようか」
「やったね! ヴィトス話せる!」
ぱちんと手を叩き、嬉しそうに微笑む。
「ねえ、キャンプするんでしょ。どこで寝るの? あの木の下はどうかな?」
大きな木の根本を指さし、もう片方の手でヴィトスの袖をくいくいと掴んだ。
「それだけはしゃぐ元気があれば、もう少し歩けるかな」
「だめっ、だめだめ、歩けない! キャンプするの、キャンプ。ねえねえ、あそこに
洞窟っぽいのがあるけど、洞窟でキャンプ?」
どうやら、初めてのキャンプに興奮しているらしい。
「どちらでもいいけれどね。それじゃ、あの木の下でご飯を食べて、洞窟の中で休むとするか」
「うん、そうしましょ。わーい、キャンプだ、キャンプ」
少し調子外れな鼻歌を歌いながら、ユーディーは早足で木の下へと向かっていく。
「ねえヴィトス、早く早くっ」
「はいはい」
急かされ、ヴィトスはすぐに後を追う。
「えーと、今日の晩ご飯は……、炊事当番はヴィトスね」
「えっ、僕なのかい?」
少し開けた場所にそこいらで集めた細い枯木を組み、火を付ける。その間、ユーディーは
大きなリュックを下ろし、背伸びをしたりしてくつろいでいた。
「お料理できる? もしできなかったらあたしがするけど。あっ、でもここには
錬金釜がないや」
「錬金釜って大げさな。まあ、人並みに食べられる物を作れなくはないから、
何とか頑張ってみるとするか」
ナップサックの中から簡単な調理用具を出すヴィトスの手を、ユーディーは感心したように見ている。
「何か材料はあるかい?」
「あ、キノコなら持ってる。妖精の日傘」
「僕はベーコンを持っているから、キノコ炒めでも作ってみようか」
適当な大きさに切ったベーコンを熱したフライパン代わりの鍋に落とす。ベーコンの油が
出た所で今度はキノコを入れ、ざっくりとかき回す。
「なんか、すごいいいにおい……、あっ」
じゅうじゅうと焼ける音、香ばしいベーコンの油の香りに誘われ、ぐううっ、と
ユーディーのおなかが鳴ってしまった。
「嘘っ」
慌てておなかを押さえ、ちらりとヴィトスの顔を伺う。
「どうした?」
「ううん、何でもないよ」
気付かれなかったか、とほっと気を緩めるユーディーだったが、
「そんなに大きく腹の虫が鳴るほどおなかが空いているとはね。なるべく手早く作るから
もう少しだけ待ってもらえるかな?」
そう言われた上ににやにや笑われてしまう。
「な、何よ! 笑う事ないじゃないの、ばかっ」
恥ずかしさのあまり頬が熱くなり、照れ隠しで言葉がきつくなる。
「笑ってないよ。それは僕の料理に期待するあまりの賛辞と受け取っておこう」
真面目な口調を作ってはみたものの、やはりこらえきれずに笑い出してしまう。
「くくっ……、あはは、しかし君は本当に素直だねえ」
「笑ってる、笑ってるじゃない、ばかーっ!」
腹立ち紛れにヴィトスの腕を掴み、ぐいぐい引っ張る・BK,
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A・C ・ Bトスがこんなに料理が上手だったなんて、意外だなあ」
「そうか、それは良かった」
ヴィトスは自分の皿の料理に口を付ける。
「明日のご飯もヴィトスに作ってもらおうかなあ。こんな事なら、もっといろんな材料
持ってくれば良かったなー」
ねだるように自分を見つめているユーディー。その表情があまり愛らしく、ヴィトスは
頬が緩みそうになってしまう。
「いや、ここは順番だろう。明日のご飯の支度は君にやってもらうとするよ」
それでもユーディーの作った手調理を食べてみたいヴィトスは、さらりと言ってのけた。
「えー、だからここには錬金釜が無いから……」
「錬金釜が無くても料理くらい作れるだろう? 道具は貸してあげてもいいし。それとも、
君の大きなリュックの中に入っているかな?」
「え。入ってない」
何故か自分のリュックをかばうように腕を伸ばし、ぶんぶんと首を横に振る。
「だって、そんなに大きなリュックだからね。僕の荷物よりもよっぽど中身が詰まって
いるんじゃないか? 少し中身を見せてくれないかな」
「だめ、だめ。これは見ちゃだめーっ」
片手で皿を持ったまま、もう片方の手でリュックを抱きしめる。そこまであからさまに
嫌がられると、少しばかり意地悪をしてでも中身を見たくなってしまう。
「ふうん、怪しいな。もしかして、僕に見られたくないお宝でも入っているのかな」
「別にどうでもいいじゃない、ヴィトスには関係のない物よ。あー、美味しかった、
すっごく美味しかった、ごちそうさま! お皿は洗えばいいの?」
どうにかして話しをリュックから逸らそうとする。
「ああ、水筒の水で洗って、拭いておいてくれればいいよ。じゃ、洗い物は君に
頼むとして、僕はそのリュックを……」
「だからだめだってば! 何にも入ってないし、見ても面白くないんだってば」
「怪しいなあ」
「怪しくないっ」
ユーディーをからかい、困らせるのは非常に面白かった。
結局リュックの中身は見せてもらえないまま、食事の後かたづけを終える。それから
就寝という話しになり、ヴィトスとユーディーは洞窟の入口に入った。
「ねえねえ、洞窟で寝るのってどうするの? お布団無いよ?」
薄暗い穴の中をぐるりと見回して、ユーディーが尋ねる。
「布団はないよ。毛布を身体に巻き付けて、そのまま地面に寝るんだよ」
「えーっ、そんな風にしたら、身体が痛くなっちゃわない?」
ユーディーは自分の身体を抱きしめる。
「それが嫌だったら外のやわらかい草の上で寝てもかまわないけれどね。まあ、夜中に
眠りこけている間に、君がぷにぷにやくまに食べられても僕は関知しないけれど」
「ううう、食べられるのは嫌〜」
うなっているユーディーの頭を、ぽんと軽く叩いてやる。
「その点洞窟の中なら安全だろう。入口に明かり取りの火を置いておけば、くまも
入ってこないだろうし」
ヴィトスは一度洞窟の外に出ると、焚き火の中から適当な枝をみつくろって持ってくる。
煙が洞窟の中に流れないような場所を選び、そこに小さな焚き火を作った。
「まあ、この火が消えてしまうか、洞窟の奥に凶暴なモンスターがいるかすれば、逃げる間も
なくぱっくり食べられてしまうだろうけれどね」
この辺りにはそんなに凶暴な敵はいないので、寝ている間に焚き火が消えてしまっても
あまり問題はない。それを知っていてユーディーを怖がらせるような話しを続ける。