● 夢のクリーム(3/3) ●
「夢、って。さっき君が言ってた、すごくいい夢ってやつかい?」
「えっ、えと、あ。うーんと……、うん」
確認するように尋ねると、ユーディーは消えそうな声で頷く。
「僕が、君にキスする夢は、いい夢なのかい?」
ユーディーが口づけを、自分を嫌がっている様子が見えない事に安心し、ヴィトスは彼女の
細く長い髪に手を伸ばす。ユーディーはほんの一瞬緊張したが、ヴィトスが静かに髪をなでると、
徐々にその緊張も薄らいでいくようだった。
「うん、いい夢って言うか、恥ずかしいけど、……嬉しかったの」
普段、借金の取り立てに来る時とは違ったヴィトスの優しい口調と仕草に、ユーディーも
素直に自分の気持ちを口に出してしまう。
「そうか、良かった」
「で、でも。何でヴィトスはあたしに、ええっと、キス……なんかしたいと思ったの?」
「あ、ああ。ええと」
逆に質問を受け、ヴィトスの方が焦ってしまう。
「それは……、そうだな、ええと、したかったからかな」
「それ、答えになってないわ。ねえ。何で? 何であたしにキスしたの?」
「何で、って、それは」
ここまで来て今更隠し立てもない、と思ったヴィトスは素直に話しをしてしまう事にした。
「君の寝顔が、とても可愛かったんだ。可愛くて、その、君の事が好きだなあ、って思って、
そうしたらキスしたくなった」
照れてしまう自分を励ましながら続ける。
「君が寝ているうちにキスするなんて、ずるいかなとも思ったんだけど……、でも、君が
嫌がってなくて良かった」
何となく言い訳めいてしまう言葉を聞いて、ユーディーが驚いた顔になる。
「え。寝てるうちにキス、って。あたしが寝てる時に、キスしたの?」
「えっ、ああ、うん」
「さ、さっきされたキスが、初めてじゃないの?」
「えっ?」
ユーディーが尋ねていたのは、起きた後にされたキス。ヴィトスが白状してしまったのは、
彼女が眠っている間にこっそりしたキスの事。
「えっ……、あ、ああ、それは」
「嘘っ、ヴィトス、あたしが寝てる間に、勝手にキス……したの? 信じらんないっ」
顔を真っ赤にしたユーディーは、力の入らない手でヴィトスをぽかりと叩く。
「そ、それは、そもそも君が、自分が寝ているにもかかわらずに僕を部屋に招くような事を
言ったからだろう」
「何? 人のせいにするの?」
「そりゃあ、目の前であんな無防備に、可愛い顔をして眠っている君を見たら……その、
まあ、なんだ。ねえ?」
「うっ……」
お互いに、自分と相手の言い分に、気恥ずかしくなってしまう。
「ふーんだ。ヴィトスなんか、もう知らない。ヴィトスのエッチ」
「エッチって。ほっぺにキスをすると、エッチなのかい?」
「そうよ」
ユーディーは、ぷい、と顔を背ける。
「……ふうん」
あからさまに平静さを失っているユーディーを見ているうちに、逆にヴィトスはだんだんと
落ち着いてくる。ユーディーは自分の事を嫌っていない、むしろ自分に好意を持っているの
だろうと確信すると同時に、いつもの調子で彼女をからかいたくなってしまう。
「ユーディットは、僕にキスをされたのが嬉しかったんだよね。さっき、そう言ったものね」
「な、何よ今更」
怒ったような顔はしているものの、否定はしない。
「でも、キスをするとエッチなんだろう……、ふむふむ、そうすると、君は僕にエッチな
事をされて嬉しがってる、って結論になるけれど」
「ええっ、な、何よそれっ!」
ヴィトスの思惑通り、ユーディーはどぎまぎと焦り始める。
「ふうん。ユーディットは僕にエッチな事をされると、恥ずかしくて嬉しいのか。なるほどねえ」
「きゃーっ! きゃーっ、きゃーっ、きゃーーっ!!」
ヴィトスの言葉を遮るように悲鳴を上げ、ばたばたと手を振り回す。
「ご、誤解されるような言い方しないでよ! 誰かに聞かれたらどうするのよっ」
「君の悲鳴の方が、声が大きいよ」
「うっ」
慌てて口を閉じる。
「うーっ、ヴィトスのばか。もうキスさせてあげない」
「君が、もうしなくていい、って言うんならしないけれど」
「……」
しばらく考え込んでから、
「やだ。して」
拗ねたように小さくつぶやく。
「してもいいのかな?」
ユーディーはうつむき、それから思い切ったように顔を上げた。
「し、して欲しい。だってあたしも、ええっと……、ヴィトスの事、す、好きだもん」
「そうか、良かった」
ユーディーの本心を聞いて安心したヴィトスは、彼女の身体をしっかりと抱きしめた。
「ユーディット、好きだよ」
優しく髪をなでながら、ユーディーに顔を近付ける。
「うん……」
そっと目を閉じたユーディーは、ヴィトスのくちびるが触れるのを待っていた。
「……」
しかし、ヴィトスは直前で顔を止める。
「……?」
ユーディーが不思議そうに目を開き、瞬きをする。
「し、しないの? してもいいのに」
自分からはっきりとキスの催促をするのが照れくさいらしく、ヴィトスの腕の中でもじもじと
身体をくねらせる。
「いや、僕は今、君のくちびるにキスをしようと思ったのだけれどね」
「あぅ」
かああっ、とユーディーが頬を染める。
「ほっぺへのキスでさえエッチなんだから、くちびるのキスは、ものすごくエッチな事かなあって」
「えっ……」
息を飲むユーディーを見て、くすくす笑いが漏れてしまう。
「だから、する前に君の許可を求めないとね。ユーディット、今から僕は君にものすごくエッチな
事をするけれど、いいかな?」
「なっ、な……ううぅ」
怒っていいのか困っていいのか分からずに、ユーディーは曖昧なうなり声をあげる。
「いっ、いいわよ。か、勝手にすれば?」
「勝手に? そうはいかないよ。もししてもいいんだったら、君の口からそう言ってくれないか。
君が許可してくれるまで、僕はキスをするつもりはないから」
「うーっ」
恥ずかしさのあまり、ユーディーの瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。
「わ、分かったわよ、言えばいいんでしょ……」
目を閉じ、思い詰めたように息を吐く。
「……して。も、ものすごく……エッチな事、あたしにして。ね、お願い、ヴィトス」
ユーディーの身体が、小さく震えている。
「うん、分かったよ。君の望み通り、とてもエッチで恥ずかしい事をしてあげるからね」
ヴィトスはあらためてユーディーの肩に手を置き直すと、顔を傾けてくちびるの先だけの
軽いキスをする。
「……はい、おしまい」
閉じたまぶた、長いまつげに光っている涙。上気して赤く染まっている頬、今くちづけた
ばかりのふっくらとしたくちびる。
おしまい、と言ったばかりなのにすぐまたくちびるを寄せたくなり、ヴィトスはもう一度
口づけをした。
「さて、ミルクを買いに行くとするか」
自分自身の照れ隠しにわざと明るい声を作るが、ユーディーは目を閉じたまま身動きしない。
「ユーディット?」
ユーディーの腕を取り、優しく引っ張ると、
「きゃ」
そのままヴィトスの胸へと倒れ込んでくる。
「ユーディット、大丈夫か?」
「……あ、あんたが恥ずかしい事言わせるから、緊張して足が震えて動かないのよ、ばかっ。
どうしてくれるのよ、歩けないじゃない」
ヴィトスにしがみつき、涙目で見上げながら訴える。
「そうか。なら仕方ない」
ヴィトスは本当に歩けないらしいユーディーの身体を引きずり、椅子に座らせる。
「君が動けるようになるまで、ここでエッチな事でもしていようか」
「な、何で普通に『キスする』って言えないのよ。訳分かんないわよ、もう」
それでもヴィトスが顔を寄せると、大人しく目を閉じてキスを受け入れた。
アトリエシリーズで食べたいお菓子。
1位:ユーディットさんが作った、レヘルンクリーム。
2位:ヴィオラートさんが作った、伝統ケーキ。
3位:マルローネさんが作った、うにフラム爆発させた後のうに。(←これはお菓子か?
4位:リリーさんが作った、ペンデル。
5位:エルフィールさんが作った、チーズケーキ。
もともとミルクものとかクリームもの、カスタード系が大好きなんですが。
プリンもブラマンジェもブリュレもグレネーゼも、同じ事言ってるかもしれないけど、とにかく大好き〜。
なので、どうしてもレヘルンクリームのお話しばっかり書いてしまいますな。