● 月の夜(1/1) ●
護衛のヴィトスと一緒に、ヴェルンからメッテルブルグへ向かう途中。日も落ち、キャンプを
張ろうと適当な空き地に落ち着いた。
そこで、ふと空を見上げたユーディーは、驚いたようにつぶやいた。
「うっわぁ〜。お月様がとってもキレイ」
真っ暗い夜空に、丸くくっきりとした月が浮かんでいる。
「ほら、ヴィトスも見てみなよ」
キャンプの準備をしていた手を止められ、面倒くさそうにしていたヴィトスだったが、
「ああ、本当だ」
言われた通りに空を見ると、感心したような声を出した。
「こんなにキレイな月、見たことないよ」
「うん」
「キレイだなあ……」
ユーディーは草むらにぺたり、と座り込んで、首だけを上げて月を見つめている。
「そんな格好をしていると、首が痛くなってしまうよ」
ヴィトスはユーディーの隣りに腰を降ろし、彼女の細い肩にそっと手をかけた。
「あ」
少し驚いた顔をしたユーディーの身体を草むらに倒し、隣りに自分も横たわった。
「ほら、こうすれば、楽に見ていられる」
「う、うん」
並んで、あおむけに寝転がって、ぼんやりと月を眺める。
「……あたしがいた世界も、二百年後のこの世界も、月は一緒なんだね」
やがて、ユーディーは、ぽつり、とつぶやいた。
ヴィトスがどう返事をしようかと迷っていると、ユーディーは月に向かって両手を思い切り伸ばした。
「おーい、久しぶり」
両手をぱたぱた、と振る。
「二百年ぶりだねえ、なんちゃって」
「君は」
子供みたいなふざけ方をするんだな、そうからかおうと思ったヴィトスだったが、ユーディーの顔を
見て言葉が止まってしまう。
くちびるをぐっ、と噛んで、目の縁からこぼれ落ちそうになっている涙をこらえている。
手を降ろし、それきりユーディーは黙り込んでしまう。
ヴィトスはユーディーの頭に手を伸ばし、やわらかい髪を指先に絡めた。
「泣いてもかまわないよ、ユーディット」
「誰が泣くのよ」
強がりを言いつつも、ユーディーはぐすっ、と小さく鼻をすすった。
それから何となく会話が途切れる。二人は、それぞれ空を向いていた。
「……やはり、帰りたいのかい?」
しばらく経ってから、思い切ってヴィトスが尋ねた。しかし、ユーディーからの答えはない。
ユーディーの方を向くと、目を閉じ、静かな呼吸をしている。
「ユーディット」
もう一度声をかけてみると、
「えっ? え? 呼んだ?」
目を開け、ぱちぱちと瞬きをする。
「ユーディット?」
「あ、ごめん、一瞬寝てた」
ごしごし、と目をこする。
「……君は」
「なになに、何か言った?」
口元を隠して、ふあぁ、とあくびをするユーディーを見て、ヴィトスは苦笑いを浮かべた。
「何でもないよ」
「そう言われると気になるなあ」
帰りたい、もしユーディーにそう返事をされてしまったら。
彼女のその答えを受け止められる自信は、今の自分にはない。
「何でもないって」
「うぅ、気になるよう」
ユーディーの気持ちをはっきりと聞かずに済んでほっとしたヴィトスは、
「君とこんなにキレイな月を見られるとはね、って。それだけさ」
心の中に渦巻く色々な気持ちを隠すように、わざと平淡な声を装ってみせる。
「あ、うん」
ユーディーがちらり、とヴィトスの方を向く。そして、月に目を戻す。
「あたし、二百年前の月より、今の月の方が好きだな」
「月は、昔も今も変わらないんじゃなかったのかい?」
「ん、そうだけど」
月の光の中で、ユーディーの頬はほんのりと赤く染まっているようにも見える。
「そうなんだけどね、こっちの世界の月は、ヴィトスと一緒に見れるもの……」
照れくささをごまかすように、言葉の最後の方は不鮮明になる。
それでも、ユーディーの言葉は、ヴィトスの中にわだかまっていた、もやもやとした黒い思いを
ゆっくりと消し去っていった。
代わりに、じわり、と温かい感情が胸の中に広がっていく。
「ふふ」
ヴィトスのくちびるから思わず笑みがこぼれ、
「何がおかしいのよ」
それを聞いて気恥ずかしくなったユーディーが少しだけ怒った声を作る。
「君と来て良かったな、と思ってね」
「な、何よ」
「別に」
このまま、ユーディーと月を眺めていたい。今、この空に浮かんでいる月だけではなく、
季節と共に移りゆく、様々な場所の景色を、ずっとずっと彼女と一緒に。
「さて、と」
そんな思いを心に秘めて、ヴィトスは起き上がる。
「キャンプの支度をしなくては。いくら月がキレイだからと言って、誰かの様にこのまま
ここで寝てしまっては風邪を引くからね」
「誰か、って、誰よ」
「誰だろうねえ」
ユーディーも身体を起こすが、そのままぺたり、と座っている。
「どうしたんだい?」
「ん、あのね」
立ち上がったヴィトスを、甘える様な上目づかいで見つめる。
「あのね、こういうのって、いいムードって感じしない?」
「ん?」
「えっと、だからね、その……おでこにキスしてくれるとか、そういうのは無い訳?」
照れた顔で、もじもじ、と自分の手をつつき合わせている。
「ああ」
ヴィトスが背をかがめると、ユーディーは少しだけ緊張したような面持ちになった。ユーディーが
そっと目を閉じる。ヴィトスはユーディーのおでこに人差し指を当て、
「おあずけ」
つん、と軽くつついた。
「なっ、何よそれっ!」
あはは、と笑って背を向け、ヴィトスは歩き出してしまう。
「ん、もう」
真っ赤になったユーディーは、立ち上がって慌ててヴィトスの背中を追った。
フィールド上のイベント
「ふふ、君とこんなにキレイな月を見られるとはね。君と来て良かったよ。」
っていうのを見て、思わずのけぞってしまったのは自分だけじゃない筈。
そういう事平気で言うんですねえ、あの鬼畜高利貸しは。
ちなみに、うちのパーティーは、ヴィトス固定、他の一人が入れ替え、って
感じなんですが、全員友好度100でもフィールドイベントではヴィトスしかしゃべってくれません。なんででしょ。