● 幸せの行方(2/2) ●

「ええ〜っ!!」
驚いて大声を出してしまうが、ヴィトスにからかわれるのには慣れている為にすぐに立ち直る。
「またまたー、もう、ヴィトスったら冗談きついんだから。やあねえ」
「冗談じゃないよ」
「……ヴィトス?」
いつもユーディーをいじめる時のふざけた顔つきではない、真面目な表情。
「えっと、まあその、そういう訳だ」
「そ、そういう訳って?」
「僕と、君が一緒に住む家だ、って事だよ」

「……」
ぼっ、と頬が燃える。何かを言いたい筈なのに、くちびるはぱくぱく、と動いているのに声が出ない。
「ま、ま」
渇いた喉に、なんとかつばを飲み込む。
「また、そんな冗談言って。そんなにあたしをからかうの、楽し……」
言葉の途中でいきなり身体を抱きすくめられ、一瞬、ユーディーの呼吸が止まった。
「いくら僕でも、君をからかう為だけに家を建てると思うかい?」
「思……わない、けど」
「ユーディットは、僕の事が嫌いなのかい?」
そう聞かれたら否定しない訳にはいかずに、ヴィトスの腕の中でなんとか首を横に振って見せる。

「良かった」
ほっとため息を吐いたヴィトスの手から少しだけ力が抜ける。
「え、でも、ねえ。一緒に住むって、だって」
「もともと、僕が住んでた家を売って、そのお金をここを建てる資金に充てたんだ」
聞かれもしないのにヴィトスが説明しだす。
「だって、だからって、あたしとヴィトスが」
「だから僕はここを追い出されると行く場所がない」
「えっ、でも、でも」
脈がどんどん速くなって、息が苦しい。
「君だって今、手持ちのお金はあんまり無い筈だから、よそに宿を借りるなんてできないだろう?」

「あ、うぅ」
(ヴィトスの事は、嫌いじゃないけど、って言うかむしろ好き……よ。だけど、だからって
 いきなり一緒に住むだなんて)
「だって、お部屋、足りないわ」
心の準備が、とかそういうレベルではない話しを聞かされ、なんとか彼に反抗しようとする。
「部屋? 一階に調合スペースとキッチンや何かの水回り。二階に寝室と、僕の執務室。
 それだけあったら十分だろう」
「し、執務室ぅ? そう言えば、本棚が据えられた部屋があるわね、って」
突然ある事に思い当たり、なんとか身体をよじってヴィトスの抱擁から逃れる。
「ユーディット?」
ヴィトスを振り切り、二階への階段を駆け上がる。ヴィトスが執務室、と言ったその部屋のドアを開ける。

「……あ」
そこは、明らかにユーディーのものではない荷物でいっぱいになっていた。
「ああっ、やっぱり! 引っ越しの時、なんか見覚えがない荷物があるような気がしたらっ……きゃ」
すぐに追ってきたヴィトスに、後ろから抱きしめられる。
「見覚えがない、って。てっきり黙認しているのかと思ったよ」
銀紫色の髪をゆったりとなでる。肩にかかっている髪をわきによけ、首筋に軽いキスをされて、
ぞくり、と背中が震える。
「僕と、その、一緒に住むのは嫌かな」
「嫌じゃ、ない。けど……多分」
「だったら、ね」

「えと、あの、でも」
腕の中で振り向かされ、
(あたしがいつも見てた夢、みたい)
少し照れたような彼の顔が近づいてくる。
(夢の中では、いつもここで終わっていたけれど)
夢ではない証拠に、ヴィトスのくちびるがユーディーのそれに触れた。夢の中では
得る事ができなかった、温かくて、幸せな感触。
「んっ、ん」
ヴィトスの手のひらがしっかりとユーディーの背中を支える。自分からも彼に触れたくて、
ユーディーも届く限りに彼の身体に腕を回す。

やがてゆっくりと顔が離れる。
「好きだよ、ユーディット」
「えっ」
初めて聞くその言葉に、目頭がつん、と熱くなる。
「大好きだよ」
「……うん」
火照った顔をヴィトスに見られたくなくて、彼の胸に顔を埋める。
「ええと、君は?」
遠慮がちなヴィトスの声に、顔を上げる。
「どうかな」

「あ」
自分一人で幸福感に浸ってしまい、確定的な返事を忘れていた事に気付く。
「あ、あたしも好き。ヴィトスの事好き。大好き」
あわてて何度も繰り返すと、ヴィトスが小さく笑った。本当に嬉しそうなその顔に、ほんの少し
いじわるをしてみたくてユーディーはわざと拗ねた声を出す。
「でも、あの部屋。あたし、図書室にしようと思ってたのよ。錬金術の本を沢山置く予定
 だったんだから……あっ」
額や頬、くちびるにも、何度も軽いキスをされる。
「まあ、君にもあの部屋を使わせてあげてもいいよ。もちろん、僕の仕事の邪魔を
 しないんだったらね」

「邪魔なんかしないわよ。そうね、あたしも、もしヴィトスが調合釜を使いたかったら
 使わせてあげてもいいけどね。でも、あたしの仕事の邪魔しちゃダメよ」
すぐに普段の余裕のある態度に戻ってしまうヴィトスに何か言おうと思ったが、
「……使わないよ、別に」
「……そうよね」
まだ頭の中がぐしゃぐしゃに混乱していて自分でも訳が分からない。それでも、混乱していても
今の状態は決して不快ではない。
「これからもよろしく頼むよ、ってお願いしてもいいのかな?」
そう言って笑うヴィトスのくちびるに、ユーディーは返事の代わりに自分から口づけた。
 いやあ、おうちを。
 建ててあげますかね普通。
 しかも公式漫画でだよ! 公式推奨カップル!(なのかな?)ヴィトユーマンセー!
 でもみんなこの漫画についてあんまり騒がないから、あんまり見てる人いないのかな。

 ちなみにおうち建ててあげるのが最終回だったのですが、
 いくら自分がヴィトユーマンセー派でも、ここまでのオチは予想できませんでした。
 (そっから先の一緒に住む、ってのは自分の妄想です。ビバ新婚バカップル!)

 そしてすっかりヴィトやんは、私の心の中ではユーディーたんのパパになりました。
 (旦那、夫という意味ではなく、パトロンの方のパパね)
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