「今日も、いい天気だな」
メッテルブルグの大通り、石畳の上を歩いていたヴィトスは、ふと歩みを止めた。たまに
さわやかな風が吹く、うららかな午後。暑くもなく、寒くもない、気持ちのいい天気。
「平和だな」
ふう、とため息をつく。その時、遠くの方からぱたぱたとせわしない足音が聞こえてきた。
「おや」
ヴィトスの方へ向かってへ、真剣な顔をしたラステルが走ってくる。
「健康の為にジョギングでも始めたのか?」
つまらない事を考えたが、ラステルの表情を見ると、ジョギングなどと言う穏やかな行為からは
ほど遠いように思えた。
「あ」
ラステルは、ヴィトスの姿を見つけると、彼に駆け寄った。
「やあ、ラステル」
「あの、追われてるんです。かくまって下さい」
はあはあ、と息を切らしているラステルは、挨拶もせずにすがるようにヴィトスを見つめる。
「追われている……? 誰に」
「ユ、ユーディーです。だめ、見つかっちゃう」
今走ってきた方を振り向き、きょろきょろと落ち尽きなく辺りを見回した。
「鬼ごっこでもしているのか? まあいい、こっちへ」
いくつか大きな樽が置いてあるその陰へ、ラステルを導いてしゃがませる。樽でラステルの
姿は見えなくなるが、念の為にヴィトスはその前に立っている事にした。
時間をおかず、今度はユーディーが走ってくる。
「来たよ」
わずかに振り返り、そう告げるとラステルはびくり、と身体を震わせた。
「大丈夫、君はじっとしているといい」
小声で言うと、ラステルは頷き、背中を丸くした。
「あっ。ヴィトスーっ!」
わりと離れた場所から、ユーディーはめざとくヴィトスを見つけ、大声で名前を呼ぶ。
「ヴィトスヴィトス、ねえねえ」
「やあ、ユーディット。何度も言うようだけれど、大きな声で僕の名前を呼ばないでくれるかな」
ヴィトスの言葉を無視して、ユーディーは彼に詰め寄ってきた。
「ラステル見なかった? ラステル」
「ラステルだったら、さっきあっちの方へ走って行ったけれど」
適当な方向を指さす。
「そう、ありがと」
「ずいぶんと急いでいるようだが、ラステルに用事なのか?」
「うん。ラステルったら、約束破ったの! ひどいよね。だから、捕まえたら、いっぱい……」
ふふふ、と意味ありげに笑う。
「じゃねっ」
にっこりと笑顔を浮かべ、手を振ると、ユーディーはヴィトスが示した方向へと走っていった。
「……もう、大丈夫だと思うけれど」
ユーディーが走り去り、充分な時間をおいてからヴィトスは声をかけた。
「あ、ありがとうございました」
立ち上がり、ラステルは頭を下げた。
「しかし、約束、ねえ。約束は守った方がいいと思うけれど」
「それ、違うんです!」
ぽつりとヴィトスが口に出した言葉に、ラステルは過敏に反応した。
「あの、違うって事は無いんですけど、確かに約束はしたんですけど、ユーディーがあんな事
しようとするなんて思わなくて」
ほんのり頬を赤らめ、ラステルは困った顔をする。
「まあ、君とユーディーの間に僕が口をはさむ筋合いも無いが、何があったのか、聞かせて
欲しい気もしないでもないな」
ユーディーの事を大好きなラステルが、彼女から逃げていると言う珍しいシチュエーションに
興味を引かれ、だからと言って詮索好きとは思われないように表面上無関心を装いつつ尋ねた。
「えっと、あの、それは」
ますます頬を赤くして、ラステルはうつむいてしまう。
「あの、ユーディーが私の事……、きゃっ」
可愛らしい小さな悲鳴を上げ、ラステルは自分の顔を両手で覆うと、またしゃがんでしまった。
「ユーディーが、私を……、ベッドに寝かされて、その、服を……、ぬ、ぬ、脱がされそうになって」
もごもご、と不明瞭なラステルのきれぎれの言葉。
「はあ?」
しかし、その内容はとんでもないものに聞こえ、ヴィトスも思わずしゃがみ込んでしまう。
「それで、ユーディーが私の弱い所ばかり……、それで私が抵抗しようとしたら、ベッドに
縛り付ける、って言われて、ユーディーが生きてるナワを探してるすきに逃げ出したんです」
「それは……、ううん」
ラステルが逃げ出すのも無理はない。
「でも、何でそんな事に? 約束って、そんな事されるのが約束なのか?」
「約束って言うか、罰ゲームなんです」
「罰ゲーム?」
ヴィトスまでつられて、小さなひそひそ声になってしまう。
「はい、ユーディーが作ったレヘルンクリームに、私が焼いた細長くて固いクッキーを立てて。
左右からかわりばんこにクリームを食べて、クッキーが倒れた方が負け、っていうゲームを
していたんですけれど」
仲むつまじくクリームを食べている二人を思い浮かべ、ヴィトスは頷いた。
「普段の罰ゲームは、使ったお皿を洗うとか、次のお茶会の時のお茶菓子を用意するとか、
そういう簡単な物だったんです。でも、今日は」
ラステルは物憂げに目線をさ迷わせる。
「……ユーディーにあんな事されるなんて、そんな恥ずかしい事、私には無理です。確かに
罰ゲームを受けるのは約束だけれど、でも」
はっ、と言葉を切り、ラステルは愕然とした目でヴィトスの頭の上の方を見つめた。
「どうした?」
その不自然な視線の動きにつられ、ヴィトスもゆっくりと振り返る。
「うふふ。見つけたわよ、ラステル」
そこには、少し得意げに笑っているユーディーが立ちはだかっていた。
「あっ、あ。あ」
ラステルは弾かれたように立ち上がったが、驚いてしまい、一歩も動けないようだった。
「何で、分かったの?」
震えた声のラステルはやっとの思いで後ずさるが、先ほど自分の身を隠してくれた樽にぶつかり、
阻まれてしまう。
「怪しいと思ったのよ。こんな短い時間で遠くに逃げられる訳……、いにゃい、いにゃーい!」
ラステルに続いて立ち上がったヴィトスに頬をつままれ、ユーディーは涙声になる。
「ユーディット、お友達をいじめてはいけないよ」
「い、いじめてないもん! 離してよっ」
ばたばたと手を振り回し、ついでにヴィトスの足を蹴飛ばそうとする。
「こら、暴れるな」
「やーんっ!」
ヴィトスはユーディーの頬をつまんでいる手を離すと、彼女の細い手首を握ってしまった。
「ラステル、今のうちに」
「は、はい」
小声で合図され、ラステルは逃げようとしたが、
「ふ〜ん、ラステルは約束破るんだ。そしたらもう、遊んであげるのよそうかな」
ヴィトスに腕をつかまれ、動きを封じられたユーディーの言葉に、ぴたりと足を止める。
「えっ」
「だって、せっかくゲームで公平に勝ち負けを決めたのに、敗者が負けを認めないんじゃ
面白くないもん」
確かに、ユーディーの言う事は筋が通っている。
「それに、これはあたしとラステルの問題なのに、ヴィトスに助けを求めるなんてずるいと
思うけどなあ〜」
何だか妙に強気になっているユーディーに、ラステルは反論できない。
「……分かったわ」
やがて、ラステルはあきらめたようにつぶやいた。
「ごめんなさい、ユーディー。私が悪かったわ」
「分かればいいのよ、分かれば。……離してよっ」
しおらしくなったラステルの言葉に満足したユーディーは、ヴィトスの腕を振り切った。
「最初から素直にしてれば、すぐに許してあげようと思ったんだけどな。逃げた分の罰も
追加しちゃおうかな〜」
ふんふん、と鼻歌を歌い始めるユーディーが、涙ぐんでしまうラステルの肩を抱き寄せる。
「そうだ、ヴィトスにも来てもらお。ヴィトスも罰ゲーム、付き合ってよね」
「何で僕が」
「だって、今からラステルに恥ずかしい思いさせるんだもん。観客は多い方がいいものねえ」
「そ、そんな、ユーディー」
ラステルは、ひくり、と息を飲んだ。
「だめ。可哀想だけれど、ラステルには選択権は無いのよ」
なぐさめるようにラステルの頭を撫でるユーディーだったが、その口元は笑っている。
「いや、僕は遠慮しておくよ」
先ほどのラステルの話の内容と、ユーディーの意味深な微笑み。見てみたい気もするが、
とんでもない行為を目の前で繰り広げられそうな気がする。
「だめだめ。ヴィトスにも選択権は無いの。ラステルをかばった罪で、有罪」
びしっ、と指を突きつけ、ユーディーははっきりと言い切った。
「じゃ、決まり。行きましょ」
何も決まってないような気もするが、ラステルをつかまえて意気揚々になっているユーディーの
後を、ヴィトスは仕方なく付いていった。
黒猫亭に入り、階段を上がる。工房のドアを開けるとユーディーはラステルとヴィトスを部屋の
中に招き入れた。
「さて、ラステルはこっち。ベッドに上がって、あおむけに寝て」
そう言ってベッドを指さすと、ラステルは涙をためた目でいやいやをする。
「ヴィトスがいるから服は脱がないでいいわ。でも、靴と靴下は脱いでね」
嫌がるラステルの仕草を無視すると、ユーディーはテーブルの上に横たわっている、生きている
ナワを見つめた。
「よく考えたら、ナワ使うと、腕に傷が付いちゃうよね。それは可哀想だから、ヴィトス」
「は?」
「ヴィトスに、ラステルの腕を押さえてもらいましょう」
「それは……、いや、さすがに」
ベッドに寝かされた、か弱い女性の腕を拘束するなど、とんでもない。
「だって、ラステルが暴れちゃうといけないもの。ヴィトスが言う事聞いてくれれば、ラステルへの
罰ゲームもすぐに済むんだけどなあ」
ユーディーは意味ありげな目で、言われるままに靴と靴下を脱いでベッドに座るラステルを見た。
「ヴィトスさん、お願いします」
もう逃げ場がないと悟ったのか、ラステルは頭を下げるとベッドに横たわった。
「そうそう。ラステルは大人しくしていればいいの。さ、腕を上げて」
うきうきした声のユーディーは、かがんで自分も靴を脱いだ。
「分かった、じゃあ、なるべく痛くないように」
ラステルが寝ている頭の方へ回ったヴィトスは、伸ばされた彼女の手首にそっと手を当てる。
「ふふん、まるで囚われのお姫様ね。美しくいたいけな姫が、悪い魔法使いの悪の手に
さらされるのよ! ああ、何て可哀想なの!」
ユーディーがベッドに上ろうと膝をかけると、ラステルは息を飲んだ。
「君は、確か王子様じゃなかったっけ。いつから悪い魔法使いになったんだ? それに、
王子様が姫を危険な目にさらしていいのか?」
「うっ」
痛い所をつかれ、ユーディーは息を飲む。
「えー、あー、それは……」
細い指をあごに当て、目を空にさ迷わせて一瞬考え込む。
「うん、悪い魔法使い、諸悪の根源はあんたよ、ヴィトス!」
「はあ?」
いきなり悪役に抜擢され、ヴィトスはたじろいだ。
「あたしは本当は姫を救う王子様なんだけど、悪の魔法使い・ヴィトスの操り魔法にかかってしまい、
最愛の姫を毒牙にかけてしまうのです。おのれヴィトス、何て卑怯な!」
どんどん芝居がかってくるユーディーに、ヴィトスは何と言い返していいか分からなかった。
「ああん、身体が勝手に動くわ。ごめんねラステル、本当はこんな事したくないのよ」
ベッドに上がったユーディーは、体重をかけないようにしてラステルの腰の上に馬乗りになる。
「ユーディー、私、こわいわ」
怯えて、涙をためた目でラステルはユーディーを見上げた。
「大丈夫よラステル、じっとしていてね」
怖がらせてみたり、なだめてみたり。ユーディーは完全にラステルで遊んでいる。
「目をつぶって大人しくしていれば、すぐに済むから」
赤くなっているラステルの頬に右手を当て、それからその指を滑らせてラステルの目元に触れ、
そっと目を閉じさせた。
「ふふっ」
それからヴィトスの方を向いて、小さく笑う。すぐにラステルの顔に目を戻し、目元を撫でて
いた指を、すっと耳元に移動させた。
「……きゃ」
軽く指先を曲げ、耳の後ろを撫でるとラステルが悲鳴を上げる。ユーディーはそのまま、
首筋からあごの下へと指を滑らせる。
「きゃっ、あっ、あ」
短い吐息と共に、小さな甘い声がラステルのくちびるからこぼれた。
「うふふっ」
ユーディーはにんまりと笑うと左手を上げ、
「さあ、観念するのよ、ラステル!」
両手で激しくラステルの身体をくすぐりだした。
「きゃっ、あっ、だめ、だめっ! きゃははっ」
ユーディーの指がラステルの脇の下、胴の横をくすぐる度、ラステルは大きな笑い声を上げて
身体を左右によじる。
「暴れちゃだめよ、ヴィトス、しっかり手を押さえてて!」
「あ、ああ」
何となく淫靡な雰囲気に飲み込まれかけていたヴィトスは、これがただのくすぐりっこだと
気付くと、言われるままにラステルの手を押さえた。
「や、やあん、くすぐった……、許してユーディー、あははっ」
「だめだめ。許さないわよ〜」
こちょこちょ、とラステルの身体をなで回すユーディー。
「だって、あははっ! 変な声出るの嫌ぁ、聞かれるの恥ずかし……、ああんっ」
びくびくと身体をのけぞらせるが、ユーディーに乗られている為に逃げる事ができない。
「うふふっ、ラステルの恥ずかしい声を、あたしだけじゃなくてヴィトスにも聞かれてるのよ。
気分はどうかしらねえ?」
「いや……、僕は」
「ヴィトスは返事しなくていいの、ラステルに聞いてるんだから」
「ああ、そうか。すまない」
調子に乗っているユーディーには何となく逆らえず、ヴィトスは素直に謝ってしまう。
「やんっ、やあんっ! お願いユーディー、変な声聞かれたくない……、そこは嫌よっ、そこ、
いじらないでえっ」
声だけを聞くと、何だか本当にとんでもない有様だった。
「うふん。だって、ラステルったら、ここ弱いもんねえ」
ユーディーの指はラステルの脇腹の辺りを執拗に狙っている。
「本当は直接さわりたいんだけど、それはかんべんしてあげる。でも」
ふいにユーディーは腰を上げると、ラステルの足元に座り直した。
「ここは許さないわよ」
そう言ってラステルの細く白い足首をつかまえ、もう片方の手で足の裏をくすぐりだす。
「いやっ、いやあっ! そこは本当にだめなの、ユーディー!」
軽く曲げられたユーディーの指が足の裏で踊ると、ラステルは悲鳴を上げながらびくん、びくんと
身体を反らせた。
「本当にだめなのよね、知ってるわ。知ってるから許せないんだなあ」
跳ねるラステルの足を押さえ付け、ユーディーのくすぐりはますます加速していく。
「きゃああんっ! お、お願いユーディー、もう、もう、私」
絶え間ない刺激に耐えきれず、ラステルの瞳から大粒の涙がこぼれる。
「ごめんなさい、私が悪かったわ、だから……、きゃはははっ!」
ぱたぱたと暴れる足がベッドを叩く。
「そうね、もうそろそろ許してあげようかなあ」
そう言いつつも、ユーディーの指はラステルの山吹色のドレスの裾の中に這い込み、形のいい
ふくらはぎや膝の下辺りまでをくすぐりにかかる。
「そこっ、指、だめぇ、ああんっ」
膝下まで上った指は、またすねを通り、今度は足の指の先をこちょこちょとくすぐった。
最後に土踏まずをわしゃわしゃと豪快に引っ掻くと、
「……良し、こんなものかな。はい、おしまい」
ユーディーはぱっと手を離した。それにつられ、ヴィトスもすぐにラステルの腕を解放する。
「あ〜、楽しかった! ラステルったら可愛いんだもん。本当はもっとくすぐりたいけど」
やっとユーディーの手から逃れたラステルは、まだ息を荒くしている。
「可哀想だから、ここら辺で許してあげる」
「あっ……、うん」
目に涙を浮かべたまま、ぐったりとしているラステルは短く返事をした。
「あん、もう。ラステルったら泣いちゃって。そんなにくすぐったかったの?」
「ええ……」
ぐすん、と小さく鼻をすすり、ラステルはぐしぐしと手で濡れた目元をこする。
「髪もぐしゃぐしゃになっちゃったね。可哀想」
暴れた時に頭も振っていた為、髪留めが外れかけて、そこからブロンドがこぼれている。
「可哀想、って。君がやったんじゃないか」
「まあまあ、細かい事は気にしないの」
呆れたようなヴィトスのツッコミを無視して、ユーディーはベッドに座ったラステルの髪を
指で梳いてやった。
「ラステル、大丈夫か?」
「はい」
ラステルもだいぶ落ち着いたらしく、呼吸もほぼ普段通りになっているようだ。
「しかし、それにしても」
ちらり、とユーディーの方に目をやる。ユーディーはほぐしたラステルの髪を簡単に三つ編みに
して、髪留めで留め直している。
「ふむ」
ちょっとしたいたずらを思いついたヴィトスは、
「ラステル、ちょっと」
ユーディーが髪を直し終わったのを見てから、ちょいちょい、とラステルを手招きする。
「はい?」
ラステルはベッドから下りると、ヴィトスに近付く。
「どしたの?」
まだベッドに座ったままのユーディーが首をかしげた。
「いや、何でもないよ。ところで、ラステル」
「はい」
名前を呼ばれ、ラステルは首をかしげた。
「自分でも知らなかったのだけれど、僕は悪い魔法使いらしくてね」
「はあ」
よく分からない、と言った様子で、とりあえず曖昧に頷く。
「そうだ。ヴィトスは悪い魔法使いだった! 退治しないと」
立ち上がろうとしたユーディーだったが、ヴィトスに腕をつかまれ、そのまま引き倒されてしまった。
「えっ?」
ヴィトスはユーディーの腕をつかんだまま、その腕を彼女の頭の上に上げさせる。寝転がった
格好にさせられたユーディーは、先ほどまでのラステルと同じ姿になってしまった。
「何、何するのよ、ヴィトス」
「いや、僕は悪い魔法使いだからねえ」
先ほど、ラステルの腕をつかんでいたのよりも明らかに強い力でユーディーを押さえ付ける。
「さっきは王子を操っていたけれど、今度は姫を操ってみようと思って」
「へ?」
間抜けな声を出すユーディーに構わず、ラステルの方を向く。
「ラステル姫に魔法をかけよう。君の最愛の王子様を毒牙にかける、卑怯な魔法だ」
「ええーっ、何よそれ!」
驚くユーディーと、ヴィトスの思惑を察してにっこり笑うラステル。
「きゃあ、大変。身体が勝手に動くわ、ユーディー、ごめんね」
もう一度にっこりと笑うと、ラステルは焦るユーディーが横たわっているベッドに上った。
「ちょ、ちょっと待って、何よそれ、魔法なんてちょっと、ラステルっ!」
「ごめんねユーディー、私も本当はこんな事したくないのよ、でも」
ラステルは指を伸ばすと、先ほど自分がされたようにユーディーの耳元に触れる。
「したくないなら、しないでよぉっ」
「だって、魔法の呪いなんですもの。仕方ないですよね、ヴィトスさん」
「うん、仕方ないね。何しろ呪いだし、おまけに悪の手だからねえ」
「ちょっとちょっと、ラステル、ヴィトスーっ! きゃあっ、ああんっ!」
ラステルの指が動き出すと、ユーディーは笑いの混じった悲鳴を上げた。
「くすぐった……、ちょっと、やーんっ!」
「ユーディーもここ弱いのよね。私、知ってるんだから」
「あはっ、あはははっ、だめぇーっ!」
ばたばたと暴れるユーディーの腕を、ヴィトスはしっかりと押さえ付けている。
「おなかと……、おへその周りも。後は、ここかしら」
白くきめの細かい肌の上を指が滑る度に、ユーディーはびくびくと身体を震わせた。
「そこ、だめだようっ! やめてやめてっ」
「だって、さっきユーディー、やめてくれなかったもの。ええと、ここはどうかしら?」
やわらかい内股を、つつっ、と指が這い上がる。
「きゃー、はははっ、だめ、だめえっ!」
「ふうん、ユーディーってここがいいんだ」
「良くない、良くないっ! やだーっ!」
この後、ラステルにさんざんおもちゃにされたユーディーが解放されたのは、だいぶ時間が
経ってからだった。