● 君を守る為に ●

「アイゼルさん、ここは危険です。どうか下がっていて下さい」
ロードフリードとアイゼルに護衛を頼んで、材料の採取に来た森の中。
「まあ、ありがとう。足手まといになるつもりはないのだけれど」
くるくる、と炎の力が込められた杖を回す。
「守られる、って言うのもたまには悪くないものね」
くすっ、と品良く笑いながら、アイゼルは言われるままに一歩後ろに下がった。
「私の知っている騎士って、がさつな人ばっかりだから、あなたみたいな方とお話できるのは嬉しいわ」
「そうですか、そう言って頂けると光栄です」
二人のやりとりを、ヴィオはぼんやりと眺めていた。

(ロードフリードさんみたいに優しくてカッコ良かったり、ローラントさんみたいに厳格だったり、
 そんでもって礼節を尽くしちゃったりするのが”騎士”なんじゃないのかなあ)
今ひとつ、『がさつな騎士』というイメージが浮かばない。
それ以上に、都会の人や身分の高そうな人と、臆せずにきちんとそれなりの会話ができる
ロードフリードはすごいなあ、と思う。
(あたし、そんなかしこまったお話しできないもん)
ロードフリードに誘われ、ブリギットのお屋敷にお食事に行った時の事を思い出す。
ブリギットと仲良くなった今ならどうという事もないが、当時はテーブルに付いた自分だけが
田舎娘丸出しになっているようで気後れしたものだった。話しの内容に付いていけない事もあって
全く会話に加われなかったのだ。

(別に、いいもん。田舎が悪いって訳じゃないし。あたしは、田舎なカロッテ村大好きだもん)
いろいろな街を見るたび、もちろんその街にはその街のいい所はたくさんあった。それでも
ヴィオは自分が生まれ育ったカロッテ村が大好きだし、自分にとって一番の場所だと思っていた。
(でも)
美人で、頭も良くて、ブリギットも驚くくらいのお嬢様らしいアイゼル。それをヴィオに
誇示したりする事はないが、その立ち居振る舞いひとつひとつに自然に品の良さが溢れている。
たまにぐさり、とキツい事を言われる事もあったが、何の知識もないヴィオに錬金術のあれこれを
親切に教えてくれた。アイゼルはヴィオにとって、尊敬できる師匠であり、憧れの女性だった。

(でも、ロードフリードさんとアイゼルさんが話してると、そこだけ空気が変わるんだよな)
まるで、ハーフェンやメッテルブルグのおしゃれなお店で、美味しいお茶を飲みながら
優雅にエスプリとウイットに富んだ会話を楽しんでるというか。そう思って、自分でもそれが
いったいどんな会話なのか分からないが、まあきっとそんなもんだろう、と思う。
「ヴィオ、どうしたんだい?」
ずっと黙り込んで考え事をしているヴィオにロードフリードが声をかける。
「あ、なんでもないですよ」
この三人でいると、自分だけ仲間はずれになった気になる、なんて言えない。ロードフリードや
アイゼルは、決してそんな事をするような人ではなかった。ただ単に自分のひがみに過ぎないのだ。

それは分かっているのだけれど、アイゼルに優しくしているロードフリードを見ると、ほんの
少しだけ胸が痛くなる。
「あたしは丈夫だから、守ってもらわなくても平気ですね」
ぴょん、と一歩前に出る。
「ヴィオ」
(ああ、なんか、拗ねてるみたいな言い方しちゃったなあ)
アイゼルさんは錬金術師ではあっても冒険者じゃないし、攻撃アイテムを使えると言っても
かよわい女性だし、ロードフリードさんに守ってもらう価値のある人だ。
ロードフリードは、優しい。そんな人柄が素敵なのに。
(なんであたし、ロードフリードさんが他の人に優しくしてると、寂しくなるのかな)

よく分からない思いを抱えながら、すたすた、と早足で歩いていると、
「きゃ」
ぐにゃり、とした物を踏んづけた。
「ヴィオ、下がれ!」
驚いて、脚を引っ込める。途端にそのぐにゃりとしていた物がうねうねと動き出す。
ヴィオが踏んだ物は、アルラウネの触手だった。
「あ、あ」
アルラウネが身体を揺すると、すぐそばの茂みに隠れていたのか、仲間が何匹か現れる。
それを見たヴィオは杖を構え直して戦闘態勢を整える。

「どうよっ!」
ヴィオがもたもたしている間に、アイゼルが炎の杖でアルラウネの本体を叩いた。
「えいっ!」
続いてロードフリードが鋭い剣でなぎ払う。
「え、えっと、えっと」
普段だったらアルラウネなど、たいした敵ではなかった。それでも頭の中がごちゃごちゃと
いろんな考えで混乱していたヴィオは、足元に転がっていた小石の存在に気付かず、
それに足を取られてしまった。
「あっ」
体勢を崩し、転んでしりもちをついてしまう。そこを狙ってアルラウネが鋭い触手を伸ばしてくる。

固い樹皮で覆われたアルラウネの触手は鞭のようにしなやかで、ヴィオにより多くのダメージを
与えようと勢いを乗せるように振りかぶる。
「う、っ」
その鞭が自分の身体に振り下ろされるのを覚悟して、ヴィオは土の上に座ったまま両手で
自分の頭をかばって身を縮めた。
「……」
固く目をつぶるが、いつまで経っても触手の一撃は来ない。
「……?」
おそるおそる目を開けると、自分の前にロードフリードが立ちはだかっていた。

「ロードフリード、さん」
「ヴィオ、大丈夫か?」
肘を高く上げ、それを前に突き出して触手の攻撃を受け止めてくれている。その腕に絡み付こうと
している触手を横に払いのけ、ちらりと振り向いてヴィオの安全を確認すると自分の持ち場に戻る。
「あっ」
ロードフリードに守ってもらうのはこれが初めてではなかった。いつも、いつでも。厳しい
戦いを強いられている時でさえ、敵のわずかな隙をついてはヴィオの盾になってくれる。
「あ、ありがとうございます!」
彼にずっと助けられていた事を今更ながら思い出し、それをしっかりと認識する。
(あたし、なんであんな焼きもちみたいな事思っちゃったんだろう)

「よしっ」
途端に元気が出てきたヴィオは、地面に手をついて立ち上がる。
「負けないんだからっ」
カゴから出来の良いフラムを取り出し、それをアルラウネに向かって放り投げる。どかん、と
大きな音がしてヴィオを狙っていたアルラウネと、その周りにいた何体かが黒こげになる。
「相変わらずすごいな、ヴィオ」
感心したような声でロードフリードがほめてくれる。
「はいっ、あ、まだ後ろにいる!」
アルラウネより強い、爆発する木の実を振りまいてくるヤツが後ろに控えていた。

「私にもフラムをいただけるかしら」
アイゼルがヴィオに手を差し出す。フラムを渡すと、
「えーいっ!」
すぐにそれを放り投げ、敵に命中させる。
「アイゼルさん、すごいですっ!」
その爆発で、ばたばた、とアルラウネは地面に倒れていった。爆風のあおりを受けてよろよろ
している敵を、一匹、また一匹とロードフリードの剣が的確に片付けていく。
「こんなものかな」
最後の一匹に向かってヴィオが杖を振り下ろす。ぽくん、と乾いた音がする。
「やったあっ!」
敵が倒れると思わず歓声を上げてしまった。


ロードフリードが辺りを見回し、安全を確認している。
「うーん、さっき私がフラムを投げた場所…あなたの作ったフラムの性能を生かせる位置に
 効果的に落とした、とは言えなかったわね」
豪華な刺繍が施されたハンカチを取り出し、額にかすかに浮いた汗をふきながらアイゼルが
自分自身の反省をしている。
「私の親友の知り合いの錬金術師……まるで自分の手足のように爆弾を使うのだけれど、
 その方の足元には及ばなくても、近づけるくらいになれば戦闘も楽になるのかもしれないわ」
それってもしかして、ハーフェンで噂の爆弾魔さんの事かな、とちらりと思ったが、ヴィオは
口をつぐんでいた。

「あっ、ロードフリードさん」
手の甲を触手で打たれたらしく、少し血が滲んでいる。それを見て慌ててロードフリードに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ああ、これくらい、少し放っておけば治るよ」
そうは言われたものの、きれいな布を出して水筒の水を含ませ、それでそっと拭いてあげた。
「ヴィオ」
簡単な治療を受けながら、ヴィオの顔を見る。
「はい?」
目を上げると彼と視線が合ってしまい、それが恥ずかしくてもう一度顔を伏せて治療に専念
しているふりをする。

「ヴィオは確かに丈夫だけど、俺はもっと丈夫だから」
ヴィオに預けているのとは反対の手で、彼女の頭をぽん、と叩く。
「ヴィオの事は俺がずっと守るから、さ」
「……はい」
そう言われ、目がじんわりと熱くなってしまう。今までは態度で示してくれていただけだったが、
改めて言葉にしてもらうと、胸の奥から嬉しさがこみ上げてくるような気がする。
「さて、行こうか」
「はい!」

今度はアイゼルが、ロードフリードとヴィオのやりとりを眺めていた。
(うふふ、いいわねえ、ああいう初々しい関係っていうのも)
昔、親友と冒険に行った時。その親友はもう一人の護衛、がさつで口の悪い騎士にいつも
守られていた事をふっと思い出す。
(……いいわねえ)
ふ、と、自分が学んでいたアカデミーのある街にいる筈の人の顔が浮かんだ。
(彼に、会いたくなっちゃったな)
やはり錬金術師なので肉体的な強さがあるとは言えないが、賢くて、優しい人。
(旅を終えてあの街へ帰ったら、自分の工房を開いて。できれば彼を招いて……)

「アイゼルさん、行きましょう」
「あ、え、ええ」
うっかり自分の世界に浸ってしまっていたアイゼルは、はっと我に返った。
「向こうの方に、いつもいい植物が生えてるんですよ」
ヴィオが指さす方向に三人で並んで歩き出す。
「あ、幸福のブドウ! あ、あ、フィルマーがいっぱい生えてる!」
道の途中途中でヴィオが立ち止まり、楽しそうに落ちている植物や鉱物を拾っている。
「ほら、見て下さい、アイゼルさんっ」
ヴィオがカゴに入りきらないくらいの収穫物をアイゼルに見せる。その無邪気な笑顔を見て、
「ふふ、あなたを見ていると、私の親友を思い出すわね」
アイゼルはにっこりと微笑んだ。


 アイゼルは可愛いですよ。ノルディスと幸せになってもらいたいです。

 それにしても、ザールブルグ〜グラムナートと来ている訳ですが
 GB版(マリーさんとエリーさんが、それぞれ妖精さんを育てるヤツ)
 WS版(マリーさんとエリーさんの二人のアトリエ)
 GBA版(マリーさんとエリーさんとアニスたんの三人のアトリエ)
 に関してはパラレルと思った方がいいんでしょうなあ。

 今度はユーディーたんが妖精さんを育てるゲームとか出して欲しいです。
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