● さわりすぎ(1/1) ●

25.好きな人、嫌いな人の続きと言うか、実質的には同じ話し
「借金が払えないなら仕方ない。今日も少し痛い目に遭わせないといけないようだね」
ヴィトスはとても楽しそうに微笑んだ。
「い、痛い目って。嫌、それは嫌あ〜」
中身の少ないおサイフを握りしめ、首を横に振りながら後ずさるユーディー。
「嫌と言っても仕方が無い、悪いのは君なんだから」
ユーディーの目の位置まで手を上げると、親指と人差し指をわぎわぎさせながらわざと
ゆっくり近付いていく。
「やだあっ」
後ろを向いて逃げようとしたが、襟首をヴィトスに掴まれた。

「大人しくしておいで。君がいい子にしていればすぐに済む」
「嘘、嘘よ。そう言って許してくれた事ないじゃない」
「そうだったっけねえ。借金の返済はすぐに忘れるくせに、そういう事は覚えているんだ」
襟首から手を離すと、正面を向かせながら片手でユーディーの身体を抱きしめる。
「ん、っ」
「うん?」
「……何でもない」
真っ赤に染まった顔に気付かないふりをして、ヴィトスはやわらかい頬を指でつまんだ。

「ユーディット、むに〜」
「ううう」
最初は軽めにやわらかく。そしてだんだんに力を入れていく。
「うん、よく伸びるね。やはり君のほっぺたはさわり心地がいい」
「痛い、痛いよ〜」
頬をしっかりと指ではさまれ、左右はもちろん上下にまで引っ張られる。
「ふにゃあああ」
半泣きになりながら身体をひねり、どうにかヴィトスの手から逃れようとするが、
「暴れるともっと痛くするよ」
そう言われてしょんぼりとした様子で抵抗をやめる。

「こんなものかな。はい、おしまい」
「ううう。伸びちゃう、ほっぺが伸びちゃうよ」
ヴィトスが指を離すと同時に、じんじんと痛む頬をかばうように両手で覆う。
「さて、次は利子のアイテムの取り立てか。そうだな、これでも頂いていくよ」
テーブルの上に置いてあったひとくちだんごを手に取ると、ユーディーが止める間もなく
腰の小物入れに片付けてしまう。
「あーん、もうヴィトスなんて嫌いっ!」
「だったら早く借金を返さないとねえ」
また自分の方を向いたヴィトスの笑顔を見て、ユーディーが身構える。

「まあ、このひとくちだんごはかなり質が良いし、今回はこれで許してあげようかな」
「これで許すって、ここまでしておいて今更……」
文句を言おうと思ったが、ふいに頭を撫でられてしまい言葉が止まる。
「アイテムの調合も仕事も順調みたいだし、これなら近いうちに借金も返せると思うよ。
 材料の採取に行くのならお代はサービスするから僕を誘ってくれよな」
「ん、うん」
頭のカーブに沿って丸めた手の平の心地よさ。ヴィトスの手に触れられていると、何だか
とても安心してしまう。たまに指を立て、髪をかりかりと優しく引っ掻いてくれる動きも
心地よくて、ユーディーはしばらくじっとそのままでいた。

◆◇◆◇◆

二人は採取場で錬金術の素材を集めていた。途中で出会ったモンスターを蹴散らしつつ、
森の奥へと進んでいく。
「エンゲルスピリット!」
ユーディーの呪文でこげ茶色のくまさんがくずおれた。
「ふう、こんなもんかな」
「お疲れ様、こっちも片付いた。これはおまけだ」
「きゃっ」
戦闘中にくまさんからかすめ取ったらしい高品質の蜂の巣を放り投げられ、ユーディーは
慌ててそれを手に受けた。

「うわあ、範囲拡大の効果が付いてる! これ何に使おうかなあ」
「喜んでもらえて良かったよ。ところでユーディット、何だか疲れてるみたいだね」
「そうかな?」
確かにずっと森の中を歩いていたので、足がだるいような気がする。
「少し休もう。君がぐったりして使い物にならなくなった所でゲシュペンストの大群に
 襲われたら困る」
「使い物って酷い言い方だなあ」
ぷん、とくちびるを尖らせながら、それでもヴィトスの後について休憩できそうな場所を探す。

「あそこら辺がいいかな、あの木の下」
青々とした下生えに囲まれた大きな木を指さす。
「そうだね、木の幹にもたれて座ればモンスターが出てきてもすぐに対応できるし、
 後ろも安全だ。君はなかなか知恵が回るな」
ヴィトスはユーディーの頭を撫でようとしたが、帽子を被っていたのでそれはあきらめ、
代わりに頬に流れているやわらかい髪の束を指でくすぐった。
「えへへ」
そこまで深く考えての発言では無かったが、誉められて悪い気はしない。

「さて、と」
ヴィトスは座り心地の良さそうな場所にさっさと腰を下ろした。
「おいで」
「え?」
それから、ユーディーに向かって両手を広げる。
「おいで、って。別に言われなくても座るわよ」
隣りに座ろうとしたユーディーだったが、動作の途中でバランスの崩れた身体をヴィトスに
引っ張られ、彼の腕の中に倒れ込んでしまう。

「な、何するのよっ!」
背中から抱きしめられる格好になったユーディーは顔を赤くして叫んだ。
「何って、こうやって僕が君の背後を守れば更に安全だろう」
「別に平気よ。モンスターの気配だって無いじゃない」
心臓がばくばくと高鳴り、気が動転して生き物の気配を感じるどころではないが、
ヴィトスの行動に抵抗を示す為に口に出す。
「分からないよ。君の声を聞きつけて興味を持ったモンスターが出てくるかもしれないし」
そう言われ、慌てて口を閉じる。

「き、あ」
突然ヴィトスに耳たぶを噛まれ、ユーディーは声を飲み込んだ。
「ひっ、や、や」
耳から背骨に向かって甘い痺れが駆け抜けていく。身体を小さく震わせているユーディーに
かまわず、と言うよりも更に彼女に刺激を与えようと、ヴィトスはくちびるで耳たぶを
優しく噛み続けた。
「な、な、なに」
「何って、君が具合悪そうだから熱がないかどうか看てあげているのさ。動かないで」
耳元で囁かれ、その度に吐息をかけられると直接くちびるで触れられるのとは違う感覚が
襲ってくる。

「具合悪くなんてないわ。熱だって無いし、熱計るのって普通おでこ、や、やんっ」
今度はくちびるが首筋に下りていく。ついでに帽子を脱がせ、それを脇に置いた。
「それに普通は手の平とかで計るんじゃないの?」
首筋に当たるくちびるの感触とヴィトスの体温。ぞくぞくと全身が痺れ、変な声が出て
しまいそうでまともに喋る事ができない。
「君と僕が向かい合っておでこの熱を計っている時に、どちらかの背後から襲われたら
 困るだろう」
別に向かい合わなくても熱くらい計れる、そう言い返したいけれどこの状態できちんとした
説明ができる自信はない。

「それに手の平なんかよりも皮膚の薄い場所で計った方が信頼性があるからね」
「だからってこんな、何でくちびる……」
くちびる、と言う単語を口に出した途端、恥ずかしさで全身が燃え上がりそうになる。
「内臓に近い粘膜で計れば正確さも増すだろう。当たり前だ」
そんな話しは聞いた事がないが、絶対に間違っているという確信もないので言い返せない。
「本当は粘膜と粘膜を合わせて計った方がいいのかもしれないね。まあ、君は敏感そうだけど」
「ふ、ぇ」
粘膜と粘膜。くちびるとくちびる。それを合わせるという事は。

「ユーディット、こっちを向いてごらん。ああ、やはり女の子はこういうの恥ずかしいかな」
恥ずかしいに決まっている、それなのに振り向かせようとする手の動きに逆らえない。
「目を閉じて。大丈夫、怖くないから」
指先で軽くまぶたやまつげをくすぐられ、反射的に目を閉じてしまう。普段は意地の悪い
ヴィトスの優しい手の動き。今も充分意地悪だけれど、意地悪を言われたりされたりする
度にどきどきと気持ちが高ぶっていくのは隠せない。
「……」
空気が、揺れたような気がした。

「ふぎゃっ!」
次の瞬間、突然鼻をつままれたユーディーが短い悲鳴を上げる。
「な……、はにゃし、はにゃして〜」
他に誰もいない二人きりの森の中。心地よくそよぐ風、揺れる草と葉の音。しっとりとした
ムードに流されて油断していた。こんな状況でヴィトスが自分をからかわない訳がない。
「うん、さすがに女の子の鼻に物を突っ込むのは失礼だからねえ。これで勘弁しておくよ」
「はにゃ?」
「敏感な粘膜と言ったら鼻だろう。何を期待していた?」
くっくっと楽しそうに笑いを噛み殺すヴィトス。
「全然期待なんかしてないわよ、何よーっ」
やっとヴィトスの指を振り切ったユーディーは目に涙を浮かべて怒り出した。
 触りすぎ・障りすぎ?
 鼻舐める(鼻攻め?)とはマニアックなプレイですよ。
 ちなみに、ωiiのワリヲの、鼻に指突っ込むゲームをやって考え付いた話し。
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