● 幸せの行方(1/2) ●

※このSSは、ファ三通PS2という雑誌に連載されたユーディーのアトリエの漫画を
 前提にして書いてますので、分かんない人がいたらごめんなさい。

「うわあ、すごーいっ!」
ユーディーは目の前にある建物を見上げても、未だに信じられなかった。
借り物なんかじゃない、ちゃんとした、自分の家。
「ねえ、本当? 本当にいいの?」
嬉しさと興奮があふれて、あふれすぎてどう言葉にしていいか分からない。
「本当に本当だよね。今更、やっぱ無し、とか言わないよね」
思わず疑うような口調になってしまうが、その家を彼女にプレゼントした当人、ヴィトスは
気にもならなかったようだった。
「ああ。これは、僕からの……その、感謝も含めていろいろな気持ちが入っているんだ」

二百年後の世界。見知らぬ場所、見知らぬ人ばっかりで、最初はとても不安で、心細かった場所。
それでもいろいろな人と知り合って暮らしていくうちに、自分にとってかけがえのない場所へと
変わっていった。
元の、自分のいた世界へ帰らなくてはいけないのかもしれない、と思って長い時間心が揺れていた
ユーディーだったが、いろいろな人に自分の存在が必要だ、そう言われてこの時代に留まろうと
決心したのだった。
もちろんその意志を聞いて涙をこぼす程に大喜びしたのはラステルだった。しかし、それ以上に
口には出さないもののヴィトスの喜びは大きく、その喜びの表現の手段として、なんと
ユーディーの為に家を建ててしまったのだった。

「工事に着手したのがついこないだみたい。ほんと、あっと言う間にできちゃったね」
目をつぶったユーディーは、砂利を敷いた土の上に木材が組まれていた光景を思い出す。
「柱を組んで、木を組み立てて。壁を塗って、レンガを積んで、瓦も乗せて。ほんとにおうちなんだねえ〜」
場所は街の中心、という訳ではないが、家がまばらに建っている地域なのでユーディーがこれから
錬金術をする際の副産物であるところの煙や音、異臭などが多少漏れても気にならないだろう。
「うふふっ」
白くきれいな漆喰の壁をぺたぺた、と手のひらで愛しそうに叩きながら、ついつい顔がにやけてしまう。
陽の光がよく差す、二階建て。
今現在、もう夕方だというのに風通しも良い。
「二階の窓に、プランター置いたらよく育ちそうだな。もしかして、肥料代わりに壊れた
 アイテム埋めたらいい野菜ができるかもしれないし」
「ああ、そうだ。君がいくら失敗してもいいように、一階の調合釜置き場の横に煙突を付けて
 もらっているから、安心してくれ」
「なっ、何よ! 人がまるで失敗ばっかりしてるみたいにっ」

それでもすぐに、にこにこ、と笑みがこぼれてしまう。
自分を、この世界に引き留めてくれた人。
(あたしの事を、必要だ、って言ってくれた人)
自分にとっても彼が必要だった、という事に気付くまでにはそう時間はかからなかった。
「でも、すごいなあ。本当にいいの? だって、おうちだよ。おうち。土地付き一戸建てだよ」
いくらヴィトスが高利貸しで儲けているらしいからと言って、家を一軒建てるなんてそうそう
簡単な事ではないだろう。
「高かった……よね?」
上目づかいで探るようにヴィトスを見上げるが、
「君はつまらない事は心配しなくていいんだよ」
ぽかり、と優しく頭を叩かれる。

「まあ正直な所、プロスタークの鉱山事故の融資の件、あそこから商売の話しが広がってね」
プロスタークで落盤事故があった時、ヴィトスはほとんど無利子に近い形で被災者にお金を貸し出していた。
「損して得取った、って感じかな」
そう言いつつも、彼が被害にあった人達の暮らしが有利に働くように、自分のつてを使って
ギルドや役人に掛け合っていたのをユーディーは知っている。
「それに、君からせしめたアイテムの数々。あれは、行く所に行けばとてつもない金額で
 取り引きされてたから」
「うっ。そう言えば、やたらめったら取られまくったからなあ」
はっ、と気付く。
「ま、まさか、このおうちも、後から何かの策略とかがあったりしないよね?」

「ユーディット。君はそんなに僕の事が信じられないのかい?」
にこにこ、と笑いながらユーディーのほっぺたを引っ張る。
「い、いたた、いたいよ〜」
身体をひねってヴィトスの手から逃れる。小走りでドアに近づき、ヘルミーナさんにもらって、
ヴィトスと一緒に取り付けた自分の店の看板を見る。
「アトリエ・ユーディット。あたしの工房、あたしのおうち」
背伸びしてその文字を指さしながら、口に出してみる。
「えへへ」
みんなは、日の高いうちにお祝いの花やワイン、ラステルに至っては手作りのケーキを持って
きてくれていた。とりあえずの引っ越しや荷物整理もある、と言う事で本格的なパーティーは
また後日、という話しになっていた。

「さて、っと。じゃあ、あたし、おうちに帰ろうかな」
荷物を運ぶ時にもう何回か足を踏み入れているけれど、初めて”帰る”のだと思うと少し緊張する。
「うふふふ〜」
ドアノブを握ると、どうしても顔がにやけてしまう。
「じゃあ、僕も家に帰るとするか」
ぽつり、とつぶやいたヴィトスが、ドアを開けたユーディーの後ろに続く。
「えっ?」
家に入るユーディーに付いて、そのままドアの中に入る。
「どうしたの、ヴィトス? ヴィトスもおうちに帰るんでしょ」

まるで工房に借金の取り立てに来ていた頃のように、さも当然、という顔で部屋に入った
ヴィトスは、そこいらへんに出しっぱなしになっている椅子に座った。
「どうしたの、って。僕も家に帰ってきたんだが」
「だって、ここ。あたしのおうちでしょ?」
「ああ、そうだよ」
「それじゃ、なんでヴィトスがここにいるの?」
「なんで、って」
座ったばかりなのにすぐ立ち上がり、不思議そうな表情をしているユーディーに近づく。
「ここは君の家であると同時に、僕の家でもあるからさ」
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