● 採取地にて(1/3) ●

アルテノルトの工房から、ヴィトスに護衛を頼んでヴェルンを通ってメッテルブルグへ向かう。
黒猫亭へ着くと、ユーディーは酒場の中をきょろきょろと見回した。
「どうしたんだい、ユーディット。捜し物かい?」
「これからリサの採取場に行きたいから、もう一人、護衛を頼みたいんだけど」
今日に限って、いつもふらふらしている馴染みの冒険者達は一人も見あたらない。
「誰もいないねえ」
「うーん、クリスタあたりに頼みたかったんだけど、いないしなあ。まさかラステルを連れては
 行けないし、リサに着いたらメルさんかマルティンに頼むことにするよ」

黒猫亭を出て中央広場に出る。
「デニッシュとか買って行かなくてもいいのかい?」
ヴィトスがそう尋ねると、ユーディーは背伸びしてヴィトスの耳元に口を寄せて、小声で答える。
「ここのデニッシュ、高くて不味いんだもん。リサで買うよ」
「しっかりしてるなあ」
「厳しい借金生活をしてるとねえ、どうしても生活の知恵が身に付くものなのよ」
横目でちらっとヴィトスをにらむと、
「まあ、倹約は美徳だからねえ」
ヴィトスはユーディーの目線を無視して、うんうん、とうなずいた。

城門を出て、道中ぷにぷにを退治しながら無事にリサに着いた。食料品店で安いデニッシュを
まとめ買いしてから広場をうろつき回ってみるが、メルの姿はない。
「メルさん、どこに行っちゃったのかなあ」
とりあえずメルを雇うのはあきらめて、採取場へ続く畑へと移動する。
「あれ、マルティンは?」
いつも元気に畑を耕しているはずのマルティンの姿が見えない。そばの大きな木の陰にたたずんで
いるおばあさんに聞くと、収穫した野菜をメッテルブルグに届けに行っている、との事だった。

「入れ違いか。タイミング悪いなあ」
ユーディーは腕を組んで、うーん、とうなっている。
「確かにここのモンスターは手強いからな、僕一人じゃちょっと手に余るかもしれない」
「こういう時って、カッコつけて『僕に任せておけ!』とか言うもんじゃないの?」
ちょっと不思議そうな顔をするユーディーに、
「生死が関わるかもしれない事に、見栄張ったり嘘ついたりしてもしょうがないだろう?
 僕は君の護衛を請け負った、だから君の安全をまず第一に考えるのは当然だ」
ヴィトスが当たり前だ、と言わんばかりに説明する。

「ヴィトスってしっかりしてるなあ」
「考え無しで突っ走る子の面倒見てるとねえ、どうしてもしっかりしてくるもんなんだよ」
そう言いながら、ぽん、とユーディーの頭を叩く。
「何よ、それじゃまるで、あたしが馬鹿みたいじゃない」
「みたい、じゃなくて……まあいいや。結局、護衛は見つからなかったけど、どうするんだい?」
「あ、えーっと」
首をかしげて少し考える。

「欲しいのは、エアロライトだけなの。質のいいやつが採れれば後は用がないから、ホウキで
 戻って来ればいいし。がーっと行って、だーっと帰ってくればいいよ」
「平気かなあ」
「ヤバかったら逃げればいいし、クラフトと、フラムも持って来てるから多分平気だと思う。
 上手くすれば、採取場の中でメルさんとかに会えるかもしれないし」
「うん、じゃあ行こうか」
「ん、よろしくお願いね」

採取場の中に入り、質のいい胡桃や蜂の巣、蒸留石を選り分けてカゴに入れながら歩いて行く。
「ブドウも採れたし、後でワイン作ろうっと」
メルには会えなかったが、緑紋石やフロジストンも手に入れ、途中の道の亀裂はホウキで
飛び越して、どんどん奥へと進む。
「エアロライト。あれかい?」
青と濃い灰が混じったような色の、つやのない丸っこい物体が草の上に転がっている。ヴィトスが
それに手を伸ばすと、手袋越しにピリッ、とした感覚が走った。
「うわっ」
「それ、気を付けないと。雷の加護を受けてるだけあって、たまに雷の電気を蓄積してるのが
 あるんだよね」

くすっ、と笑いながら、ユーディーは器用にエアロライトを集めてカゴに納めていく。
「ねえ! ヴィトス、見てこれ!」
「高威力のエアロライトか……あっ、こっちのは潜在能力がすごいじゃないか」
「これよ、これ! こういうのを探していたのよ」
上質のエアロライトを手に取り、きゃあきゃあと喜び回る。
「もう気が済んだかい? じゃあ、さっさと帰ろう」
「ちょっと待って。こっちの奥に、たしかグラビ石も落ちてたような気がするんだけど」
欲張ったユーディーが小走りで茂みに分け入って行く。

「おい、ユーディット」
「きゃああ!」
ユーディーの叫び声を聞いて、ヴィトスが走り出す。
「ユーディット!」
「ヴィトス、あたし、道を間違えちゃったみたい……」
茂みをかき分けると、少し開けた場所に、ユーディーがたくさんのマンドラゴラに囲まれて
立ちつくしていた。

「伏せろ、ユーディット。カーロナーゲル!」
ユーディーがあわてて頭を下げるとヴィトスのナイフから鋭い一閃が繰り出される。ユーディーに
襲いかかろうとしていた一番手前のマンドラゴラが倒れると、
「クラフトでもフラムでもなんでもいい、投げろ!」
「あ、うん」
ユーディーに爆発物を投げさせ、自分はナイフで触手の攻撃を防ぐ。ユーディーが用意して
いたのはわりと強力な爆弾だったらしく、マンドラゴラは次々になぎ倒されていく。

「後ろに、アルラウネとドライアドがいるぞ、気を付けろ!」
「爆弾、無くなっちゃったよ……エンゲルスピリット!」
ユーディーが精神にダメージを与える呪文を唱える。
「ユーディット、大丈夫か?」
「うん、なんとかなる」
「僕の方も……これで最後か?」
その時、ヴィトスの前にいたアルラウネが全身を揺すった。顔が付いている幹の上に咲いている
濃いピンク色の花の中から、黄色と紫色のきらきら光る粉がまき散らされる。
「うっ!?」
ちくちくした粉が目に入り、頭がくらくらする。視界がぐにゃり、とゆがんで、頭の周りを
大小の星が回っているような錯覚さえ覚える。

「幻惑……混乱の粉か?」
アルラウネの顔が引き延ばされて、縮まって、ユーディーの顔になる。攻撃しようと思った
ヴィトスのナイフが一瞬止まると、そのユーディーが笑いながら切り付けてくる。
「くそっ、やっかいな」
「ヴィトス、大丈夫?」
「来るな、ユーディット」
走り寄ってきたもう一人のユーディーが、ヴィトスに襲いかかっているユーディーの腕に飛びつく。
「呪文を使え!」
またヴィトスの視界がゆがみ、今度は二人ともアルラウネの姿になる。

「こっちか?」
くらくらする頭を押さえながら、ヴィトスは利き手に持ったナイフを振り上げる。
「ヴィトス!」
ナイフを突き立てようとしたアルラウネの姿がまたユーディーに変わって、悲鳴をあげる。
「きゃあああ!」
「本物か?」
泣きそうなユーディーの表情を見ても、振り下ろしたナイフは止まらない。ヴィトスはナイフの
勢いを殺せないならせめて、と刃先の方向を変えようと思ってできる限り腕を曲げたが、その
結果、切っ先は勢い余ってヴィトスの左腹に突き刺さる事になった。

「ヴィトスっ、ヴィトス!」
「ユーディット……呪文」
「あ、うん。エ、エンゲルスピリット!!」
ユーディーの指の先から白い霧のような固まりが飛び出し、アルラウネの顔に炸裂する。
しゅううっ、と音を立てて地面に崩れ、炭のような固まりになって土に砕けるアルラウネの姿を
見て、ヴィトスは意識を失った。
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