● 019.二人だけの物語 ●

「ユーディー、こんにちは」
「ラステル! こんにちは〜」
部屋を訪ねてくれた親友に元気よく挨拶をして、ユーディーは彼女を中へと通した。
ラステルが持参の手作りお菓子を広げている間に、ユーディーがお茶の支度をする。
美味しそうな焼き菓子と香りの高い紅茶がテーブルに広げられ、二人が横に並べた椅子へ
落ち着くと、
「あのね、ユーディー」
ラステルは持ってきた手提げから、えんじ色の布を貼った表紙の薄い本を取り出した。
「これ、見て欲しいんだけど」
「なになに? 何の本かな」
「ええと……」
見て欲しいと言ったわりに、手の平よりも少し大きめサイズの本を広げようとしない
ラステルを少し不思議に思う。
「ねえ、もったいぶらないで早く見せてよ」
タイトルだけでも見ようとしたが、表紙にも背中にもそれらしき文字はない。
「スケッチブックかな? ラステルって絵とか描くの?」
「いいえ、あのね、これは」
頬を染めて躊躇していたが、やがてラステルは恥ずかしそうに本を開いた。最初のページに
書かれていた文章を見て、ユーディーは驚いた声を上げる。

「んっ、あれ? これラステルの字じゃない! ラステル、本を出したの?」
「ち、違うの。これはもともと真っ白な本で」
「真っ白な本?」
慌ててラステルが説明する。
「もともと何も書かれていない、ただ真っ白なページだけの本なの。それに日記を
 書いてもいいし、お絵かきをしてもいいし。それでね、私」
ぱらぱらとページをめくったが、字が書いてあるのはほんの二、三ページだった。
「お話しを考えて書いてみる事にしたの。でも途中で行き詰まってしまって、ユーディーに
 続きを一緒に考えて欲しくて」
「なるほど〜! でもお話しを作るなんてラステルすごいね。見せて見せて!」
内容を読もうとしたが、ラステルは両手を広げてページを隠してしまった。
「や、やっぱりいいわ。見せるの恥ずかしい」
「今更恥ずかしがるなんて無しよ、あたしとラステルの仲じゃない」
「でも、ごめんなさい、やっぱり止める。お願いユーディー、見ないで」
「ここまでもったい付けておいてダメだなんて許さないわ。ほらラステル、その手をどけて。
 あたしにラステルの恥ずかしい秘密を見せてごらんなさい〜」
にやにや笑いながら、ユーディーはラステルの手を握ってどけさせようとする。
「ひ、秘密じゃないけれど、やあんっ、ユーディー、だめ」
「抵抗する気なのね。あたしに逆らうんだったら仕方ないわ、ラステルの身体に聞いて……」
手を離し、今度はラステルの脇の下をくすぐろうとして手を止めた。

「うん、あんまり嫌がってるのを無理強いしちゃいけないよね。ごめん」
それから、顔を赤くしてその手を引いた。
「ユーディー?」
てっきり普段の楽しいくすぐり合いが始まるものだと思っていたラステルが拍子抜けした
声を出す。ユーディーは自分の両手を背中に隠し、少し困ったような顔でラステルから
視線を外した。
「どうかしたの?」
「ううん、何でもない。いつもべたべた触ってごめんね」
「えっ?」
今更そんな事を謝られる筋合いも無いし、そもそもユーディーとのじゃれ合いが嬉しい
ラステルは慌ててしまう。
「べ、別にいいのよ。私はユーディーだったら平気だし、ユーディーに触られたり、
 触ったりするのとても好きだもの」
「あ、うん、そう言ってもらえるとあたしも嬉しいと言うか何と言うか」
「……」
「……」
お互い意識してしまうと、急に恥ずかしくなってしまう。
「あのね、ラステル」
「はい」
二人は緊張し、身体も固くなっていた。

「これからもよろしく」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
突然かしこまった挨拶をしてぺこりと頭を下げるユーディーにつられ、ラステルも頭を
下げる。顔を上げ、目が合ってしまうとまた頬が熱くなり、おろおろと視線をさまよわせた。
「あ、そうだあのねユーディー、これ、この本と言うかお話しなんだけど」
「ああ、そうね! ええと、見せてもらってもいいかな」
「もちろんよ。どうぞ」
何となくぎくしゃくしながらも、この場を仕切り直そうとラステルは本を広げた。
「ええとね、まず私とユーディーが大きなお城に住んでいるの」
「ふんふん」
ざっと斜め読みをしながらユーディーは相づちを打つ。
「広いお庭があって、そこから果物を取ったり、私がお菓子を作ったりしてね、二人で
 楽しく暮らしているのよ」
「それはいいねえ〜、ラステルの作るお菓子は美味しいもんね。毎日食べられたら
 幸せだなあ」
うんうんと頷くと、ラステルも嬉しそうな顔をした。
「それでね、お話しだからここから事件が起こらなくてはいけないと思うの。でも
 どんな事件を起こしたらいいのか分からなくて」
確かに、最初から最後まで幸せに暮らしました、では物語性に欠ける。

「なるほどねえ。事件が起こって、それを解決して、二人は永遠に幸せに暮らしました、
 って展開じゃないとつまらないよね」
二人で永遠に幸せに。ユーディーがふと口に出した言葉がラステルの胸の奥に甘く刺さった。
「ええ。何かいい案はないかしら」
高鳴ってしまう胸を軽く押さえ、ラステルが尋ねる。
「そうねえ。うーん、じゃあ、ラステルがさらわれちゃうのはどう?」
「ええっ?」
「お姫様が悪い奴にさらわれて、それを王子様が助けに行くの。悪い奴はケチョンケチョンに
 やっつけてね! あ、じゃあ悪い奴はヴィトスにしよう」
ふふん、と不敵に笑うユーディーを見てラステルは少し不安げになる。
「ヴィトスさんを悪者にしちゃっていいの?」
「いいのいいの。それに、ヴィトスに見せなければバレないもん。ね、これ続き書いていいの?」
「ええ、どうぞ」
ラステルは手提げの中からペンとインクを出し、それをユーディーに渡した。
「ええと、ラステル姫が果物に手を伸ばした瞬間、黒い雲が立ちこめました、っと」
「あの、私がお姫様……、でいいの?」
お姫様扱いをされたラステルは落ち着かないようだった。
「え、だってラステルはあたしのお姫様だもん。いけなかったかな?」
当然のように言い切られ、ラステルはますます恥ずかしくなってしまう。

「ううん、いけなくはないわ。大丈夫よ」
熱くなった頬を冷やそうと、そっと手の平を当てる。
「そっか。じゃあ続きね。禍々しい風が吹き、悪魔のような鬼畜のような、そんでもって
 冷血漢の男が現れます」
日頃重なった恨みがあるのか、ユーディーの描写は少しばかりしつこかった。
「黒いマントを羽織ったその男はラステル姫の手を掴むと……」
「掴むと?」
ユーディーがちらりとこちらを見たので、ラステルは言葉を繰り返す。
「うーん。腕を引っ張るのは可愛そうだし、ヴィトスがラステルを抱きかかえて連れて
 いくとなると、ちょっとなあ」
「きゃ」
いったんペンを置き、ラステルの身体に腕を回す。
「だって、ラステルを抱っこしていいのはあたしだけだもん」
「あ、あぁ」
せっかく冷めかけたラステルの頬がまた熱くなってしまった。
「あ」
その様子を見たユーディーの頬もじんわり赤くなってしまう。
「あの、ごめ」
「ううん、大丈夫」

以前は抱き合ったり頬を寄せ合ったり、キスをするのも平気だったのに、何で最近は
こんなに照れくさくなってしまうのだろうか。二人とも口には出さなくても心の中では
同じ事を考え、ゆっくりと身体を離した。
「じゃあ、魔法で浮かせて連れて行くのはどうかしら」
「あっ、それいいね。ラステル頭いいな〜。ええと、邪悪な魔法使い・ヴィトスが
 むにゃむにゃと怪しい呪文を唱えると、ラステルの身体が浮き上がりました、っと」
赤くなった顔にお互い気付かないふりをして、文字を書いている紙に目線を落とす。
「それを、姫の帰りを待っていたあたし、ユーディットがお部屋の窓から見ていました。
 ……うーん、お話しの中とは言え、ラステルがいなくなっちゃったら寂しいな」
自分で作った話しにしょんぼりしてしまった。
「大丈夫よ、ユーディーはすぐに助けに来てくれるんでしょう? 私、信じてる」
「ラステル……。うん、助けに行く。待っててね」
しっかりと頷き合い、そこから先の話しを考える。
「それから魔法使いを捜すユーディットの旅が始まりました。ええと、一年くらい旅を
 続け、ってそれじゃ時間がかかりすぎか」
「そうね。私、ユーディーと一年も離れているの、嫌だわ」
悲しい顔になってしまったラステルの頭に手を伸ばし、ユーディーは優しくなでてやった。

「あたしもそんなにラステルと離れられないよ。じゃあ、一週間くらいかな。んーっと、
 邪悪な魔法使いは罪もない人に驚くような金利でお金を貸し付けたり、あちこちで悪質な
 取り立てをしたりと悪事を重ねていたので、すぐに居場所がバレました」
かなり私情が入っていたが、ラステルはあえて口を挟まなかった。
「ある日、メッテルブルグの酒場で哀れな貧乏人……、いやいや、一時的な貧困に喘いでいる
 善良な市民を毒牙にかけようとしている所にあたしが乗り込んでいきます。じゃーんっ」
「ユーディー、楽しそうね」
「うん、何だか乗ってきた。筆が進むってこういうのを言うのね〜」
ストーリーはもう滅茶苦茶だったが、二人で考えながらお話しを書くのはとても楽しかった。
「ラステルを返しなさい! あたしが怒鳴ると魔法使いは驚きました、っと」
「でも、それくらいでひるむヴィトスさんじゃないと思うわ」
「それはそうね。じゃあ、あたしは祝福されて威力も高くてMP消費無しのスグレモノの
 ブリッツスタッフを構え、ヴィトスとにらみ合いました」
その場面を思い浮かべると何となく笑いがこみ上げてしまうが、ラステルは冷静に指摘する。
「でもユーディー、酒場の中でブリッツスタッフを使ったらお店の人にも、お客様にも
 迷惑になってしまうわよ」
「そっかー。じゃあ、戦いの舞台を採取場にしよっか。ここなら誰も来ないでしょう」
もしかしたらパルクさんがいて、二人の戦いの実況をしてしまうかもしれないが、その
可能性は取りあえずよそに置いておいた。

「まずあたしがスタッフを構え直し、雷属性の魔法を飛ばします。ばーんっ!」
「でもヴィトスさんは羽織っていたマントでその魔法を跳ね飛ばしてしまいました」
「うっ。ヴィトスやるわねっ」
うーんと唸って、ユーディーは次の作戦を考える。
「生きてるナワはどうかな。ぎゅうぎゅうに締め付けて身動きできなくしちゃうの」
「確かにナワは巻き付きましたが、ヴィトスさんは一瞬で抜け出してしまいました」
「ヴィトスって器用なのね。次はどうしようかな」
自分が錬金術で作ったあれこれのアイテムを思い浮かべた。
「じゃあ、貴族のたしなみを使おうかな。毒・麻痺・酔いのフルコースよ」
「ヴィトスさんは風上にいたので、香りが届きませんでした」
「ええーっ! って、ラステルどっちの味方なのよっ」
「あっ、ごめんなさい。でも数々の困難に打ち勝って私を助けに来てくれる王子様って
 素敵だと思って」
ふむ、とユーディーは頷いた。
「それもそうね。この戦いがクライマックスな訳だし、盛り上げるだけ盛り上げて
 おかないと。さすがラステルだわ」
首をかしげて良策を考える。
「クラフト……、ダメね、ラステルにまで被害が及んじゃう。見えない鎖も、さっきの
 縄抜けの術を見ると効かなそうだしな、どうしたらいいかな」
さらわれた筈のラステルがいつその場に現れたかはあまり気にしない事にした。

「ユーディーが考え込んでいるうちに、ヴィトスさんが近寄ってきました」
「えっ、いつの間に!」
「今度は僕の方から攻撃をさせてもらおう、そう言うとユーディーのほっぺに手を伸ばします」
「ま、まさかっ」
ユーディーは自分の頬を両手で覆った。
「そうよ。ユーディー、むに〜」
「いやああんっ!」
ラステルはユーディーのあちこちを親指を人差し指でつまむ。ヴィトスがつまむのとは
違ってちっとも痛くなかったが、それでもユーディーは顔を背けた。
「やだ、やだってばあ、ラステルっ」
「うふふ、面白い。ヴィトスさんがユーディーのほっぺをつまみたくなる気持ちが分かるわ」
「やめてよラステル、あたしもお返ししちゃうからね!」
ユーディーも手を伸ばしてラステルの頬をつまんだ。
「やんっ」
「ん、確かにふにふにで気持ちいい」
なめらかな肌の感触を味わうように指を動かす。
「ね、気持ちいいわよね」
「うん、まあ確かに」
二人でお互いの頬を優しくつまみ、その弾力を楽しんだ。

「そうだわ! ヴィトスがあたしのほっぺに気を取られている隙に、ラステルが逃げ出して
 来ちゃうの。どう?」
「それはいい考えだわ! じゃあ、ヴィトスさんに気付かれないように、そっとユーディーの
 背後に逃げてきます」
頬を離し、ラステルはユーディーの肩に手を当てた。
「これで怖い物無しね。まずはトゲトゲのウニ! ヴィトスの動きが一瞬止まったところで
 炎ダメージばっちりのフラムでたたみ掛けるわ。その頃にはきっとマントも破れているから、
 改めてブリッツスタッフで攻撃。えーいっ!」
よっぽど日頃の恨みが溜まっているのか、ヴィトスに攻撃を加えている場面を書く時の
ユーディーは心の底から楽しそうだった。
「後は仕上げに、ヴィトスのほっぺもむにむに〜よ。よし、完全勝利!」
「やったわね、ユーディー」
「ラステルの救出も大成功。会いたかったわ、ラステル」
「私もよ。寂しかったわ、ユーディー」
お話しの中で離ればなれになっていただけなのに、二人は幸せそうに抱き合った。
「じゃあ、あたしたちのお城に帰りましょう。ラステル、お祝いにケーキを焼いてくれる?」
「もちろんよ。あっ、あのね」
ラステルは少し恥ずかしそうに頬を染めた。

「ん? どうしたの?」
「あのね、ヴィトスさんにさらわれている間、とても怖かったの。でもユーディーが
 助けに来てくれるってずっと信じてた」
すっかり物語に同調してしまったラステルの目が涙でほんのり潤んでいる。
「うん。あたしはラステルの為ならどこへでも行くよ。ラステルも、あたしを待ってて
 くれてありがとう」
「私こそありがとう。それでね、私を助けてくれたユーディーに、お礼にケーキを作るわ。
 だからユーディーからも、大人しく待っていた私にご褒美が欲しいの」
「ご褒美?」
顔を伏せ、ラステルはもごもごとつぶやく。
「あのね……、王子様からお姫様への、甘いキス」
「あ」
かああっと頬が熱くなるユーディー。それに負けずラステルも真っ赤になっている。
「そ、そうね。王子様とお姫様のハッピーエンドにはキスが付き物よね、でも」
心配そうに困った顔をした。
「ラステル、あたしがキスしても嫌じゃない?」
「嫌な訳無いわ、嬉しいってずっと言っているじゃない」
「うん、そうだよね」

「逆に、最近ユーディーがあまりキスしてくれないから、ユーディーの方こそ私に
 キスするの嫌になったのかしら、って」
「そんな事無いよ! ただあたしはラステルの迷惑になったらいけないと思って」
指をつつき合わせ、ちらちらとラステルに目をやる。
「全然迷惑じゃないわ。ね、だったらユーディー、お願い」
ラステルは少し緊張した表情で目を閉じ、顔を軽く上げた。
「あ、ん。ラステル、好きよ」
やはり緊張したユーディーはゆっくりを顔を近付け、目をつぶってからラステルの両方の
頬に左右順番に口づける。
「ん、っ」
「はあっ」
顔を離してからも目を閉じたままで、二人は深いため息をついた。
「……ドキドキする」
「私も」
そっと目を開け、目線が合うと恥ずかしくなってお互いに顔を反らした。
「本当はお姫様からキスをねだるなんて恥ずかしいのよ。王子様がちゃんとしてくれないと」
「そうかなー。そっか。ごめん」
ぺこりと頭を下げたユーディーはまだもじもじしていた。
「でも、何だか前と違うの。ラステルにキス……、すると胸が苦しくて」
ユーディーは手の平で自分の胸元を押さえた。

「苦しいの? 辛い?」
「辛くはないよ。ただ、キスするとラステルを今よりもっとどんどん好きになっちゃう
 ような気がして」
ユーディーと触れ合う時に心の底からこみ上げて来る甘く優しい疼き。ユーディーも
それを感じてくれるようになったのだろうか、ラステルはそんな事を考える。
「もっと好きになるならいいじゃない。私もユーディーをもっと好きになりたい、だから
 もっとキス、してくれる?」
「うん。そしたらラステルもしてくれるかな」
「もちろんよ。ユーディー、大好き」
今度はラステルからの、頬へのゆったりしたキス。
「んっ……、ん。やっぱりドキドキする」
「ええ。ねえユーディー、もう一度して」
「うん」
初めの頃の、挨拶代わりのものとは全然違うキス。相手を思う気持ちは同じだけれど、
それでも何かが少しずつ変わりつつある。
「ユーディー、大好き」
「あたしもラステルが大好きよ」
お話しの中の自分たちのように、どんな困難があってもずっと二人で一緒にいたい。
ラステルはそんな思いを改めて噛みしめた。

◆◇◆◇◆

「あっ! それは……!」
借金の代わりにと、ヴィトスは出来のいいメテオールを取り上げた。
「無いものはしょうがない、けど僕も手ぶらで帰る訳にはいかないんでねえ」
「やめて! 返してよーっ」
何度取り立てを繰り返してもその度に大騒ぎするユーディーが面白くて、ヴィトスは
今日もわざと彼女を怒らせるような態度を取った。
「アイテムを取られたくなかったら、さっさと借金を返せばいいじゃないか。簡単だよ」
「簡単な訳ないじゃなーい! あんな無謀な金額返せないわよ」
「それも君の働きが悪いからだろう」
「知らないわよ、ヴィトスのばか。嫌い」
ぷん、とくちびるをとがらせてヴィトスに背を向けてしまうユーディー。
「ん?」
その間に、まだ彼女をからかう口実は無いかと部屋の中をぐるりと見回したヴィトスが
テーブルの上に乗ったえんじ色の小さな本に目を留めた。こんな本を読んでサボってるから
借金が返せないのだ、そう言いがかりを付けようと思ってユーディーに気付かれないように
手を伸ばし、中をざっと読む。
「……何だこれは」
「へ?」
振り返ったユーディーがヴィトスの手元を見て息を飲む。

「ちょっ、それ勝手に見ないで! 何するのよっ」
「ラステルがお姫様で、僕が魔法使い? しかも何で君にやっつけられてるんだ」
駆け寄って本を取り上げようとするユーディーだったが、ヴィトスは雑作もなくその
手をかわしてしまう。
「ちょっと、ヴィトス読むの早すぎよう」
「ふむ。君とラステルは僕をこてんぱんにやっつけたあげく、幸せに暮らした、と。
 そもそも何で僕がラステルをさらわなきゃいけないんだ」
「あのだからそれは、ただの作り話しだし。ヴィトスはお話しを盛り上げる為に、特別に
 出演してもらっただけだし」
ヴィトスの目が楽しそうに笑っているのを見て、本を奪い取るのを諦めたユーディーは
じりじりと後ずさった。
「そうか、話しを盛り上げる為にね。なるほど、だったら僕も協力しよう」
テーブルに本を置き、ヴィトスは焦るユーディーににじり寄ってくる。
「協力? って何よ。それにもうお話しは終わってるし」
「いやいや、これは続編の話しだよ。やっつけられた魔法使いがより強い力を付けて
 王子に逆襲しに来る、ってストーリーを考えたんだが、どうだろうね」
後ろを向き、駆け出そうとしたがすぐに首根っこを掴まれた。
「まずは王子が泣き出すまでほっぺたをつまんでやらないとねえ」
「嫌、いやーっ!」
叫びも虚しく、ヴィトスはさんざんユーディーいじめを楽しんだのだった。


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