● お守り ●

真夜中と言ってもいいくらいの時間の月光亭。
客は全て帰ってしまい、酒場にはオッフェンとヴィオの二人きりだった。
かちゃかちゃと静かにグラスを洗っているオッフェンの手元を、カウンターの席に座っている
ヴィオがぼんやりと眺めている。
「ヴィオ、俺がグラスを洗うのが、そんなに面白いか?」
聞くともなしに尋ねてみると、
「んー、まあ、はい」
屈託のない笑顔と共に、気のないという訳でもない、曖昧な返事が帰ってくる。

ヴィオの両親がカロッテ村を出て行ってから、もうすぐ五年の月日が流れようとしていた。
ヴィオが自分の店を作ってから、彼女が錬金術で作る不思議なアイテムを求めに大勢の人々が
村に訪れていた。カロッテ村はどんどん発展し、ハーフェンにも負けないと言っていいくらいの
大都市へと変容していた。住人も増え、村のあちこちはきれいに整備されるようになった。
しばらく前からヴィオは依頼の仕事を受けるのとは別に、客のいなさそうな時間を見計らって
ちょくちょく月光亭を訪れるようになっていた。
オッフェンと他愛ない会話をする。気が向くと酒場の片付けや洗い物を手伝ったり、オッフェンが
出すミルクやジュースを飲みながら、ぼんやりと考え事をしている時もある。

一週間に一度、二度だったペースが、やがて一日おきに変わり、今ではほぼ毎日になっている。
最近はクリエムヒルトも帰ってしまう深夜の時間帯に来る事が多くなっていた。さすがに
女の子が一人でそんな時間に出歩くのはどうかと思ってそれとなく注意を促してはみたが、
彼女の家と酒場はほんの数メートルしか離れていない事もあり、ヴィオは全く気にかける様子もない。
「ヴィオ、こんな時間まで起きていると美容に良くないぞ」
「ああ、あはは。そうですかねえ」
カウンターの上に出しっぱなしになっていた、えんじ色の紐を縒って作ってあるコースターを
いじくりながらヴィオが笑う。

「それに、あまり遅い時間に出歩くと幽霊が出るぞ」
驚かせるつもりで言ってみるが、ヴィオは動じる気配もない。
「幽霊なら、平気ですよ。うちにも一人いるし」
カロッテ村からかなり離れた地、メッテルブルグから幽霊を連れて帰って来たという話しは、
村人の間でも密やかな噂になっていた。
「第一、こんな時間にこんな場所にいても面白くも何ともないだろうに。話し相手だって
 俺しかいないし」
ぱっ、とヴィオが顔を上げる。
「面白いですよ。面白いって言うか、楽しいって言うか……もしかしてあたし、邪魔ですか?」
オッフェンが忙しそうにしている時は声をかけてこない。店の中をちらかす訳でもなく、
帰り際には自分が使った椅子やコップをきちんと片付けていく。そんなヴィオが邪魔である筈はない。

むしろ、彼女が傍らにいる状態を好ましい、と思い始めている自分の気持ちを外に出さないように
気を付けながら、
「いや、邪魔って事はないが」
オッフェンは穏やかな声で答える。
「良かった」
ほっとしたような顔で、ヴィオはコースターの裏表を眺めた。
「これ、ほつれてますね」
長く使っている間に、水分が染み込み、また乾かしてが何度も繰り返されたコースターは、
編み目がでこぼことしている。

「ああ、そろそろ替え時かな」
洗い物を終えたオッフェンは、やわらかい布で手を拭いた。
「でも、紐自体は痛んでないし、色も褪せてないし。あたし、編み直ししてみていいですか?」
「まあ、好きにしてくれ」
「失敗したらごめんなさい、って最初に謝っておきますね」
小さく笑ってから両手の指先で紐をほぐし、端からほどいていく。
「……もうすぐ、ヴィオの両親が帰ってくるんだったよな」
今度は、オッフェンがヴィオの手元を見ながらつぶやく。
「んー、はい、そうですね」
面を構成していた紐が、だんだんと一本の線に戻っていく。

「で、ヴィオはどうするんだ? 店を続けるのか」
店の経営はうまく行っているようだった。と言うよりも、すでにヴィオの店はカロッテ村、
カナーラントの名物になっていると言っても過言ではない。
「あ、はい、それなんですけど」
ほどき終わると、絡まないように気を付けながら紐の端を左手の親指に数回巻き付ける。
「少し、悩んでるんですよね」
紐を軽く引っ張りながら、今度は小指の方へ持っていく。小指にくるりと回して、また親指に戻す。
「あたし、お店をやってみて思ったんです。あたしは一人じゃ何にもできないんだなあ、って」
横に8の字を書くように、小指と親指の間をくるくると何度も回していく。

「そんな事はないよ。店があんなに立派になったのは、ヴィオが頑張ったからじゃないか」
「あたしの力だけじゃないですよ」
やがて、紐は小さなだんご状にまとまっていく。
「お兄ちゃんにも、ロードフリードさんにも。ブリギットにもクラーラさんにも手伝ってもらって」
だんご状になった紐の固まりを、ゆっくりと指から抜く。
「そもそも、お店を立ち上げる時だって、作った後もオッフェンさんにお世話になりっぱなし
 だったじゃないですか」
「でも、そこから店を作り上げていったのは、他の誰でもない。ヴィオだろう?」
「ええ、そうですけど」

だんごの中から紐の端を引っ張り出す。くるりと円を描くように丸め、そこにごちょごちょと
糸を通していく。
「別に、一人で何もできない、って事が悪い事だとは思ってません」
きゅっ、きゅっと糸を引き締めながら、器用に指編みを始めていく。
「ただ、あたし、自分一人になった時、何ができて何ができないのかなあって。そういう事を
 見極めたい……、見極めたいなんて言ったらおこがましいかな」
中心からぐるぐると渦を巻くように、丁寧に編んでいく。
「お店はお兄ちゃんに任せて。旅に出てみようかなって考えてるんです」
いったん指を休め、オッフェンを見つめる。

「旅って。ハーフェンや、メッテルブルグへか?」
「違います、もっと遠い場所。アイゼルさんに教えてもらった色々な国へ。カロッテ村に
 戻ってくるまで何年かかるか分からないけど、あたし、自分自身の事を知りたいし、
 他のいろんな事も知りたいんです」
「……なるほど。だったら、身体にだけは気を付けるんだぞ」
ヴィオは、少しだけ驚いたような顔をした。
「止めないんですか?」
首をかしげ、不思議そうに尋ねる。
「俺が止めたとして。ヴィオは考え直すか?」
「考えるとは思いますけど、旅に出る決心は変わらないと思います、でも」

編みかけのコースターを指から外し、そっとテーブルに置く。
「オッフェンさん、止めてくれないんだ……」
小さな声でつぶやくと、そのまま肩を落とす。
「ヴィオがあちこちへ行って、旅にも慣れて来たのは俺も良く知ってるよ」
オッフェンはカウンターを周り、彼女のすぐ後ろに立った。ヴィオの肩をぽん、と優しく叩く。
「ザヴィットにも聞いてるぞ。ヴィオは一人でドラゴンを倒すんだってな」
「えっ? ドラゴンを一人でなんて、倒した事ないですよ」
驚いたような顔をオッフェンに向けた。

「ああ。ヤツの冗談なのは分かってるよ」
「ひどいなあ、ザヴィットさん。あたしがいない時に何言われてるんだか」
くすっと笑うヴィオを見て、オッフェンも安心する。
「それに、ヴィオがもう立派な、一人前の大人になったっていうのも分かっているからね」
「ほんとに? オッフェンさん、本当にそう思ってくれてるんですか?」
オッフェンは、ヴィオに良く分かるようにはっきりと頷いて見せた。
「だから、お前さんが決めた事なら、それはヴィオにとっては大事な、必要な事なんだろう。
 ま、少し寂しくなるがな」
「あは」
ヴィオはカウンターに両ひじをつくと、手を組み、そこに顔を埋めた。

黙り込んでしまったヴィオの手の間から、すんすんと泣き声が響いてくる。
「ヴィオ?」
「あ、ご、ごめんなさい。ずっと考えてはいたんだけど、この話しするのオッフェンさんが初めてで」
「ああ、うん」
「お兄ちゃんにもまだ話してなくて。オッフェンさんに話したら、なんだか気が抜けちゃった……」
それだけ言うと、また小さく泣き続ける。
とりあえず、彼女の気が済むまで無理に泣きやませる事はしないつもりで、オッフェンは
黙ってヴィオの隣の椅子に腰かけた。

思えば、ヴィオが泣いてる所を見るのも久しぶりだった。
子供の頃、兄にいじめられた、と言っては、泣きながら月光亭に駆け込んできたヴィオ。
甘いお菓子を手渡すと、ずっとオッフェンのズボンにしがみついて離れなかった。
本当に、あんな小さな頼りなかった少女が、よくここまで成長したな、と思う。
「ああ、そうだ」
オッフェンは椅子から立ち上がると、ズボンのポケットに手を入れ、そこを探った。
村人の数が増えるにつれ、子ども達の人数も多くなってきている。その子達にあげる為に
いつも持っているキャンディーを取り出す。

「ほら、ヴィオ」
キャンディーをテーブルに置いた、ほんの小さな音を聞いてヴィオが涙に濡れた顔を上げた。
「あ」
ピンクと、もう一つはブルーのストライプの包み紙。
「キャンディーだ」
ぐすっと鼻をすすり、目元をこすってからそれを手に取る。
「昔、子供の頃。あたしが泣いてると、オッフェンさん、いっつもキャンディーとかくれましたよね。
 甘くて、美味しくて。あたし、大好きだった……」
手のひらの上で二個のキャンディーを転がし、懐かしそうに目を細めた。

「……オッフェンさん」
そっとテーブルにキャンディーを置いて、ヴィオがオッフェンを見つめる。
「知ってました? オッフェンさん、あたし」
まだ涙も乾かないまま、にっこりと笑顔を浮かべながら立ち上がる。
「ずっと、オッフェンさんの事が、好きだったんですよ」
思い詰めたように言葉を吐き出しながら、両手を伸ばし、オッフェンの身体に抱き付いた。
「ヴィオ?」
「ごめんなさい、迷惑なのは分かってます。でもごめんなさい、今だけ、今だけでいいんです。
 こうさせて……下さい」

客のいない月光亭に毎晩のように通っていたのは、オッフェンに告げたい事があるからだった。
一つは、旅に出るという決意。もう一つは、ずっと心の中に押しとどめていた想い。
「好きです……、オッフェンさん、好きです」
オッフェンの胸に顔を埋め、ただそれだけを繰り返す。
「……ヴィオ」
震えている細い肩に手を当て、自分の身体から離れさせようとする。しかし、ヴィオは
いやいやをして、いっそうきつくオッフェンにしがみつく。
「あたしは、まだ何も知らない」
普段の明るく無邪気な声とは違う、思慮深く、大人びた声。

「だから、村の外へ出て、色々な物や事を見て、いろんな人とたくさん話しをして、本を読んで。
 もっともっと、勉強しなくちゃいけない」
顔を上げ、濡れている目でオッフェンを見つめる。
「あたしにはそれが必要だし、そうしたい。そうするつもりでいるんです、でも」
そして、目を伏せる。
「あたしの心の一部は嫌がってる。カロッテ村に留まりたいって。オッフェンさんのそばを
 離れたくないって」
オッフェンに聞かせる為と言うよりも、自分自身に言い聞かせるように。

「辛い事とかもあると思うんです。自分の限界を知りに行くんだから、当たり前ですけどね」
首を傾け、肩に置かれたオッフェンの手に頬を寄せる。
「外へ出て辛い思いをするよりも、平和なカロッテ村で、ずっとぬくぬくと幸せな毎日を
 過ごしていたいって、そんな風に思っちゃう事もあります」
そっと首を動かし、オッフェンの手に頬ずりをする。
「でも、それじゃいけない。絶対にいけないの。そんな風にしてたら、あたし、絶対腐っちゃうから」
まだほんのりと濡れているヴィオの頬は、高い熱でも持っているようだった。
「村への思い……、執着って言った方がいいのかな。執着は、断ち切らなきゃいけない、って」
オッフェンの背中に回された手に、ほんの少しだけ力が入る。

「余計な執着は断ち切らなきゃいけないけど、カロッテ村や、オッフェンさんを好きな気持ちは
 無くしたくない。そんな風に考えてて」
ヴィオが頬を乗せているのとは反対の手で、ゆっくりと彼女の頭をなでる。少しだけ驚いたように
ぴくり、と身体が緊張したが、すぐに肩の力が抜ける。
「えへ、オッフェンさんになでてもらうの、嬉しいな」
「ああ」
ヴィオに言われて、彼女の頭をなでていた自分を改めて意識する。そんな事をするつもりは
無かったのだが、腕の中で小さく震えている少女、自分の思いを一生懸命言葉にしようと
努力しているヴィオを見ていると、そうせずにはいられなかった。

「もしかして、旅に出た先で何か失敗して。落ち込んで、目的も果たしてないのに村に帰りたい、
 なんて思っちゃう事もあると思うんです」
余計な口を挟まずに、小さな首の動きだけで相づちを打ってくれるオッフェンに笑いかける。
「まだ出かけてもいないのに、失敗の事考えちゃ駄目かな。でも、もしそうなっても、あたしは
 途中で投げ出しちゃいけなくて……ごめんなさい、こんなに長く話しして。迷惑じゃないですか?」
「いや、平気だよ」
耳当たりのいい、ヴィオの声。心地よい体温、なめらかな長い髪。
(いつの間に、ヴィオはこんなに大人になったんだろう)
手のひらにヴィオの髪を感じながら、オッフェンはそんな事を思った。身体にしがみついて
いるのは、昔知っていた小さな女の子ではない。

(でも、やっぱりヴィオはヴィオで……、ヴィオ以外の何者でもなくて)
「……お守り」
「えっ?」
突然のヴィオの言葉に、オッフェンは現実に引き戻される。
「お守り欲しいなって思って。あっ、別にお守りに頼ろうとか、そういうんじゃないんですよ」
ぱたぱた、と手を振る。
「ただ、もし、本当に辛い時に、何て言うかちょっと心の支えって言うか、そういうのが
 あったらいいな、って。だから、オッフェンさんにお願いがあって」
「俺に?」
「はい、あの」
ヴィオが言葉を切る。恥ずかしそうにうつむき、くちびるを噛む。

「あの……、あたし、オッフェンさんに」
もごもご、と口の中で転がされる言葉は不明瞭だった。
「ええっとですね。つまり、何て言うか」
顔を上げ、オッフェンと目が合ってしまうとすぐに顔を反らす。
「すいません。決心して来た筈なんだけど、言おうと思うと何て言っていいのか分かんなくて」
思いを言葉にしたいのに、どうしてもそれができない。
普段からはきはきと物をしゃべる性分のヴィオは自分自身でもそれがもどかしいのか、
少しだけ悔しそうな顔をする。

「別に構わないさ。今日言えなかったらまた今度でもいいし」
「だめです! 今言わないと、決心が鈍る気がするんです」
ゆっくりと息を吸う。それから、もっとゆっくり吐く。
「あ、深呼吸は、先に吐くんでしたっけ……けほっ」
更に息を吐こうとして、肺に空気が足りなくなって、少し咳き込む。
「大丈夫か? ヴィオ」
「はい、ええっと、あの」
覚悟を決めたようにくちびるを結ぶ。顔を上げ、真っ直ぐな瞳でオッフェンを見つめる。

「あたし、オッフェンさんにお守りをもらいたいんです」
「俺に?」
返事の変わりに、ヴィオはしっかりと頷く。
「ええと……、何か、お守りの代わりになるような気の利いた物はあったかな」
ざっと店の中を見回すが、古ぼけたグラス、何種類もの酒瓶、そんな物しか目に入らない。
「あの、ええっと、そういう、物とかじゃなくて」
ふいに、ヴィオが背伸びをする。
そして、オッフェンのくちびるに自分のそれを押し付けた。

「……」
自分の胸に倒れ込んでくるヴィオの体重を支えなくては、そう思ってオッフェンは彼女の
背中に腕を回す。
無意識に、その腕に力が入る。すると、ヴィオは驚いたように顔を離した。
「……ヴィオ?」
耳の方まで真っ赤に染まり、ゆっくりとヴィオは後ずさる。その動作に合わせ、オッフェンは
腕を解いた。
「あと、えっと、えへ。ごめんなさい、お守り」
恥ずかしそうに口元を押さえ、それでも無理に微笑みを作りながら新しい涙をこぼす。

「強引にもらっちゃいました。えへへ」
丸めた手でごしごしと頬をこする。
「ヴィオ、私は」
オッフェンが、もう一度ヴィオに向かって手を伸ばす。その手を避けるように、ヴィオは
もう一歩後ろに下がった。
「オッフェンさんって、真面目になると自分の事『私』って呼ぶんだよね」
両腕を後ろで組んで、可愛らしく首をかしげる。
「分かってます、あたしのワガママだって。歳だって全然離れてるし、あたしみたいな
 コドモ、オッフェンさんが相手にする訳無いって」

「ヴィオ……」
「でも、本当に好きだったから。ずっと前から好きだから。その気持ちだけ、伝えたかったんです」
ヴィオは服の袖を掴むと、その布で顔を拭いた。
「さて! そろそろ帰ろっかな。これ以上オッフェンさんの邪魔しちゃいけないし」
にっこり笑って、わざと明るい声を作る。
「今まで、どうもすみませんでした。もう、夜の時間には来ません。それじゃ」
背中を向ける一瞬前、止められない涙が光って見えた。
「ヴィオ」
ヴィオが酒場のドアを開ける前に、彼女の肩に手をかける。

「すまん。その……、ヴィオの気持ちを受け止めてやれなくて」
「ううん、充分ワガママ聞いてもらいました」
ヴィオの細い肩から手を離すと、オッフェンは自分の首に掛けていたチェーンを外した。
チェーンに通された指輪が、きらりと揺れる。
「ヴィオ、これを」
「オッフェンさん……?」
そのまま、チェーンをヴィオの首にかけてやる。
「お守りだ。持って行け」
「で、でもこれ、オッフェンさん、ずっと着けてたでしょ? 大切な物じゃないの?」
「大切な物だから、お守りになるんだよ。お前さんがカロッテ村に帰ってきた時、返して
 くれればいい」

ヴィオは驚いた顔でオッフェンを見つめた。首にかけられたネックレス、トップに付けられた
指輪を手で包み、
「はい!」
元気に返事をした。
ヴィオは首の後ろに手を回し、チェーンの下になっている髪をふわりと持ち上げた。
それからペンダントヘッドを服の中にしまい、服の上から大切そうに手を当てる。
「カロッテ村に帰ってくる頃には、あたしすごくいい女になって、モテモテになって、
 素敵な男の人を何人もはべらせちゃってるかも知れませんよ」
ふふん、といつもの表情で笑う。

「その時になって、あたしの事恋人にしておけば良かったー、なんて思っても遅いんですからね」
「ふん。ろくでもない男を連れてきたら、追い返してやるからな」
「できるもんなら、やって下さいー」
くすくす、と二人で笑い合う。
「……でも、オッフェンさんより素敵な人なんか、いないと思うけどな」
ぽつり、とつぶやき、
「それじゃ、ありがとうございました!」
顔を赤くして、ぱたぱたとドアを出て行った。

「お守りか。……それにしても、ヴィオがいなくなったら、この村もさみしくなるな」
人が大勢いて、酒場にもひっきりなしに客が出入りする。そんな中でも、ヴィオの存在は
特別だった。
オッフェンはカウンターに戻ると、ヴィオがやりっぱなしにしたコースターを取り上げる。
「どうするんだ、これは。編みかけでほっぽり出して。ヴィオが帰ってきたら、続きを編んで
 もらうとするか」
もっとも、彼女が帰ってくるまで、自分がこの村に留まっているかどうかは分からないが。
「それまでは、これが俺のお守りだな」
オッフェンは、編みかけのコースターをそっとポケットに入れた。


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